研究課題
オートファジーは、隔離膜と呼ばれる膜構造で細胞質成分を覆いオートファゴソームと呼ばれる二重膜に取り囲んだ後にオートリソソーム内で分解する機構である。酵母を用いた解析によって多くのオートファジー関連タンパク質(Atg)が同定された。私の所属研究室において、小胞体由来のAtg5に依存する従来型オートファジーとは異なるゴルジ体を起源とした新規オートファジーが見出された。新規オートファジーの実行分子の多くは、従来型オートファジーと異なっているが、Ulk1に関しては共通に利用されている。しかし、どのように2つのオートファジーの分岐が決定されるかは未知のままであった。また新規オートファジーのマーカー分子の開発は道半ばでありその生理的、病理的役割に関しては充分明らかにされていなかった。前年度から今年度の研究で以下の結果を得た。1. 新規オートファジーを誘導した際のUlk1のリン酸化をMS解析し、新規オートファジーに特異的なリン酸化を複数同定した。2. そのリン酸化されるセリン部位をアラニン置換した変異体を恒常的に発現したAtg5/Ulk1ノックアウト細胞株を作製し、オートリソソームの肥大化を指標にして新規オートファジーへの影響を調べた。その結果、1つのセリンのリン酸化が新規オートファジー誘導に必須であることを見出した。3. 同定したリン酸化セリンを認識する抗リン酸化抗体を作製した。この抗体は細胞染色及び免疫沈降実験において十分な結果を得ることができ、解析の結果からリン酸化Ulk1はゴルジ体に特異的に局在することがわかった。4. このリン酸化のキナーゼがネクロプトーシス誘導因子のRIPK3であることを示し、DNA傷害依存的な新規オートファジーにはRIPK3が必須であることを見出した。5.これらの研究結果はNature Communicationsに受理された(発表は2020年4月)。
1: 当初の計画以上に進展している
最大の目的であった新規オートファジーに特異的なリン酸化を複数同定するとともに、その中の一つが新規オートファジーに必須であることが見出された。このリン酸化のキナーゼを見つけることで研究が格段に進歩した。この結果によって、新規オートファジーにおけるUlk1の制御機構の解明が大きく進展したと考えている。本年度にこれらの研究結果をNature Communicationsに受理されることができた(発表は2020年4月)。またこれ以外にオートファジーに関連したいくつかの論文を発表することができた。
新規オートファジーに特異的なUlk1リン酸化部位の同定と責任キナーゼの同定に関して、前年度から今年度に達成できた。今後は新規オートファジーの生理的意義、病理学的影響の解明に関して解析を進める。今までの新規オートファジーの解析には、Atg5ノックアウトの状態にすることで従来型オートファジーを排除し、その際でも起こるオートファジーを解析するのが通例だった。しかし上記の抗リン酸化抗体を用いることで野生型のマウス組織でも新規オートファジーの誘導を可視化することが可能だと考えられる。抗リン酸化抗体で各種組織での免疫組織化学を行い、新規オートファジーの実行部位を探る。さらにマウスにDNA損傷等のストレスを加えた上で同様の解析を行い、どのストレスに応じてどの細胞、組織で新規オートファジーが誘導されるかを明らかにする。
すべて 2020
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 3件)
Life science alliance
巻: 3 ページ: -
10.26508/lsa.201900576
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