エフリン受容体(Eph)ファミリーは、正常な組織においてはリガンドであるephrinと結合することで、細胞内のチロシンキナーゼ活性が上昇し、神経軸索ガイダンスなど発生過程において様々な役割を担う。一方、がん細胞におけるEph受容体は本来のシグナル伝達とは異なり、ephrin非依存的に働くことで細胞の増殖や運動性の促進など、がん悪性化に関わっていることが多数報告されている。特にephrin受容体ファミリーの中のEphA2は、神経膠芽腫を含め様々ながん細胞において高い発現が認められており、がん悪性化との関連が注目されている。がん細胞におけるEphA2は、リガンド非依存的にシグナルを流すことで細胞運動の促進など、がん悪性化に繋がることがこれまでにも報告されている。今年度は神経膠芽腫細胞において高発現が確認されているEphA3受容体に着目し、siRNAを用いたEphA3の発現抑制、及び過剰発現による神経膠芽腫細胞への影響について解析を行った。その結果、siRNAを用いてEphA3のノックダウンを行った細胞では、コントロール細胞と比較して細胞の運動性の低下が見られた。一方、EphA3を恒常的に発現させた細胞では、コントロール細胞と比べて運動性の促進が観察された。また、EphA3を恒常的に発現させた細胞において、ミオシン軽鎖のリン酸化の増加が見られ、ROCK阻害剤であるY-27632によりミオシン軽鎖のリン酸化、並びに細胞運動性の促進作用が抑制された。細胞運動性の促進作用は、Rho特異的阻害剤であるC3酵素によっても抑制された。以上の結果から、神経膠芽腫細胞ではEphA3の高発現によって、リガンド非依存的に細胞の運動性が促進し、その作用にRho-ROCK経路が関与していることが示唆された。
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