研究実績の概要 |
細胞の発生する力は、周囲を取り巻く微小環境に伝わり、移動、形態変化、増殖、分化決定など様々な細胞機能に重要であることがわかってきている。本研究では、細胞内分子イメージング法である単分子スペックル顕微鏡法により、力を発生するアクチン細胞骨格と細胞外マトリックスを繋ぐ接着斑分子の構造変化を直接可視化し、力伝達の機序を一分子レベルで明らかにすることを目的としている。本年度は、ミオシン依存的な張力がアクチン線維を安定化することを、細胞内において最高精度の時空間分解能で明らかにし、研究成果を Mol. Biol. Cell 誌に論文発表した (Yamashiro et al, Mol. Biol. Cell, 29, 1941-1947, 2018)。また、ライブイメージング定量解析に頻用される標的結合型蛍光プローブが、細胞内力の影響を強く受けて局在ミスを示す新規の機構 (Convection-induced biased distribution model) を明らかにし、研究成果を、Biophys. J 誌に論文発表した (Yamashiro et al, Biophys. J., 116, 142-150, 2019;京大プレスリリース2019年1月11日)。これらの研究成果は、アクチン細胞骨格が発生する細胞内力の新規の役割を明らかにしており、今後、細胞内の力応答や細胞運動、癌浸潤の理解に展開することが期待できる。また、これら2篇の発表論文は、学術研究に対する国際的評価システムである FACULTY of 1000で推薦され、アメリカ細胞生物学会のミニシンポジウムで採用されるなど、国際的に高い評価を得ている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究代表者はこれまで、細胞内蛍光単分子イメージングを格段に改良し、高精度の時空間分解能で単分子の振る舞いを捉える簡便・高効率なeSiMS 顕微鏡法(electroporation-based Single-Molecule Speckle Microscopy)を開発した。本研究では、eSiMS 顕微鏡法を用いて、力と相関のある分子変動を捕捉して得られる時空間的情報を手掛かりに、アクチン流動力伝達の分子機構を明らかにすることを目的としている。現在まで、ミオシン張力によるアクチン安定化とアクチン流動力が分子濃度勾配形成機構を解明し、論文発表した (Yamashiro et al, Mol. Biol. Cell, 29, 1941-1947, 2018, Yamashiro et al, Biophys. J., 116, 142-150, 2019)。また、細胞接着分子(ビンキュリン、タリン、インテグリンβ1)の動態を一分子イメージングにより捉え、細胞内アクチン流動力との相関の可視化解析を進めている。さらに、一分子動態の観察結果に基づいた数理モデル解析を行い、アクチン線維流動力と細胞外基質の連結機構の解明を進めている。
|