研究実績の概要 |
HB-EGFはEGFファミリーに属するヘパリン結合性の増殖因子である。HB-EGFはその受容体としてEGFR(ErbB1)あるいはErbB4に結合し、これらを発現する細胞にシグナルを伝達する。HB-EGFは種々の癌において細胞増殖促進因子として機能することが知られている。一方で、HB-EGFはマウス心臓弁形成過程で弁間質細胞に対して、逆に増殖抑制因子として機能しており、この増殖抑制シグナル伝達には、弁間質内の細胞外マトリックスにおいてHB-EGFとヘパラン硫酸プロテオグリカン(HSPG)との相互作用が必須であること、そしてこの時HB-EGFの受容体としてErbB4が機能していることが、本研究申請者らによるこれまでの研究から明らかとなった。そこで本研究ではこれらの知見を基に、HB-EGFが発現し増殖促進因子として機能しているがん細胞に対し、HSPG及びErbB4を導入することで、細胞を増殖させているHB-EGFそのものを増殖抑制因子に転換し増殖を阻止する事を目的とし、従来の分子標的治療とは全く異なる新規な戦略に基づくがん治療法の開発をめざす。 本年度は、HSPG導入によるHB-EGFのErbB4受容体結合選択性転換とその分子機構の解析を目的として、前年度樹立した、野生型あるいはHSPG欠損CHO(677)細胞へのErbB4の4種類の各サブタイプ(JMa/CYT1, JMb/CYT1, JMa/CYT2, JMb/CYT2) あるいはEGFRの導入発現細胞を用いて、HB-EGF結合性比較実験により、HB-EGFのEGFRあるいはErbB4に対する結合選択性におけるHSPGの貢献度を検討する予定であったが、HB-EGF結合性を評価する実験系に修正を要する問題が発生し、この問題解決に現在取り組んでいるところである。
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