研究課題
組織は多種類の細胞からなり、細胞はそれぞれの接着性などの違いをもとに自ら動いて並び替えを行うことで機能的な組織構造を形づくる。申請者はこれまでに接着分子ネクチンに着目し、ホモフィリックよりもヘテロフィリックな接着が強いという性質によって、2種類の細胞が自らモザイクパターンに並ぶという新しい細胞選別の基本原理を見出し、これが様々な組織内の細胞の並び方を決めていることを示してきた。しかし、このようなモザイク様の細胞選別において、細胞がどのようにして隣接する細胞との接着力や親和性の違いを感知し、並び替え運動に変換するのかはわかっていない。本研究では、細胞接着と細胞骨格の連携に働くαカテニンと関連する分子に着目し、接着力の違いを細胞選別運動に変換するメカニズムを明らかにする。本年度は、αカテニンを欠損して細胞間接着の活性を持たないDLD-1 R2/7細胞(以下R2/7細胞)に対してαカテニンの様々な変異分子とともに、ネクチン-1あるいは-3を導入した上で、ヘリン、カテニン、さらにアクチンやミオシン分子に蛍光標識した分子を発現する安定発現株を作成した。また、これらの細胞を使って細胞選別実験を行い、この過程を経時的に観察することにより、細胞選別の過程で見られる並び替え運動と分子の動態を同時に可視化する実験系を確立した。作成した細胞を用いて様々な組合せにおける細胞選別実験を進めた結果、異なるネクチンを発現している細胞が相互に割込みを繰り返し、モザイクパターンに並び替わる際に、従来のモデルから想定されていたものとは異なるカドヘリンの偏った分布が観察された。現在、割込みの際にカドヘリンの偏りを作り出すメカニズムについて検討を進めている。
1: 当初の計画以上に進展している
イメージング用の安定発現細胞株の作成が順調に進んだ。また、予算の前倒し使用により、顕微鏡用の新しいカメラシステムを導入し、細胞選別実験の観察が効率よく行えるようになった。これらによって細胞選別過程を高解像度で経時観察が可能な実験系を確立することが出来た。この実験系を用いて、異なるネクチンを発現する細胞の混合培養を行い、細胞選別における割込みの際の細胞の挙動と、接着分子や細胞骨格の分子動態を解析したことで、従来考えられていたモデルとは異なる分子の挙動が観察され、新たな研究の端緒につながった。今後は、割込みの際に見られる分子の偏りを作り出すメカニズムについて検討を進める。組織培養を用いた、マウス嗅上皮における細胞パターン形成メカニズムの解析についても順調に進展している。
これまでの研究結果から、異なるネクチンを発現する細胞間での細胞選別で見られる割込みの際には、従来考えられていたモデルとは異なるカドヘリン分子の挙動が観察された。すなわち、割込む細胞と割込まれる細胞との間につくられる境界面の接着力は対称ではなく、割込む細胞のヘテロフィリックな2辺の接着面のうち1辺にはカドヘリン・カテニン複合体が強く局在するのに対し、もう1辺の接着面には弱いという非対称な接着力の分布が見られた。この偏りを作り出すメカニズムを明らかにする目的で、アファディンやαカテニンの様々な変異体を用いて細胞選別実験を行い、解析を進める。また、接着分子が偏って局在することで割込みを引き起こすメカニズムについては数理モデルを用いて検討を行う。
神戸大学の共同実験施設への利用料として、2019年3月末に支払う予定をしていたが、予想していた金額よりも請求額が少なかったため、余剰分を次年度に繰り越したために、次年度使用額が生じた。研究は順調に進んでいるが、翌年度、引き続き試薬や消耗品の購入、培養細胞の観察等の研究を継続する予定である。
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The FASEB Journal
巻: 33 ページ: 5548-5560
https://doi.org/10.1096/fj.201802005R
Journal of Theoretical Biology
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