研究課題
組織は多種類の細胞からなり、細胞はそれぞれの接着性などの違いをもとに自ら動いて並び替えを行うことで機能的な組織構造を形づくる。申請者はこれまでに接着分子ネクチンに着目し、ホモフィリックよりもヘテロフィリックな接着が強いという性質によって、2種類の細胞が自らモザイクパターンに並ぶという新しい細胞選別の基本原理を見出し、これが様々な組織内の細胞の並び方を決めていることを示してきた。しかし、このようなモザイク様の細胞選別において、細胞がどのようにして隣接する細胞との接着力や親和性の違いを感知し、並び替え運動に変換するのかはわかっていない。本研究では、細胞接着と細胞骨格の連携に働く分子群に着目し、接着力の違いを細胞選別運動に変換するメカニズムを明らかにする。前年度までに、異なるネクチンを発現している細胞が出会うと、相互に割込みを繰り返し、モザイクパターンに並び替わる際に、従来のモデルから想定されていたものとは異なるカドヘリンなどの接着分子の偏った分布が観察された。本年度も引き続き、異なるネクチンを発現する細胞株を用いて、モザイクパターンを形成させるための細胞選別実験を行い、接着分子や細胞骨格の動態解析を進めた。その結果、割り込みに働く2つの接着面では、これらのうちの一方の接着面だけに接着分子や細胞骨格が偏って存在するだけではなく、接着面の構造が異なること、および接着面の運動能が異なることなど、様々な非対称性が存在することがわかってきた。
2: おおむね順調に進展している
イメージングに必要な顕微鏡のセットアップが進み、細胞選別実験の観察が効率よく行えるようになった。その結果、解析データが着実に得られてきている。この実験系を用いて、本年度も多くの新知見が得られてきた。異なるネクチンを発現する細胞の混合培養を行い、細胞選別における割込みの際の細胞の挙動と、接着分子や細胞骨格の分子動態を解析から、従来考えられていたモデルとは異なる分子の挙動が観察され、新たな研究の端緒につながった。さらに、分子局在の非対称性のみならず、細胞構造の非対称が明らかになってきた。今後、分子と構造の非対称性を作り出すきっかけとなるメカニズムについてさらに検討を進める。
これまでの研究結果から、異なるネクチンを発現する細胞間での細胞選別で見られる割込みの際には、割り込みに働く2つの接着面のうちの一方の接着面だけに接着分子や細胞骨格が偏って局在することが観察された。すなわち、割込む細胞と割込まれる細胞との間につくられる境界面の接着力は対称ではなく、割込む細胞のヘテロフィリックな2辺の接着面では、接着分子や細胞骨格だけでなく、細胞構造そのものが異なっていた。この非対称性を作り出すメカニズムを明らかにする目的で、アファディンやαカテニンの様々な変異体を用いて細胞選別実験を進める。また、顕微鏡の解像度をあげて接着面の微細構造の観察を行い、構造非対称性の解析をすすめる。また、接着分子が偏って局在することで割込みを引き起こすメカニズムについては数理モデルを用いて検討を行う。
2019年度末に予定していた出張の多くがキャンセルになったため旅費の繰越が生じた。また、神戸大学の共同実験施設および動物実験施設への利用料として、2020年3月末に支払う予定をしていたが、予想していた金額よりも請求額が少なかったため、余剰分を次年度に繰り越した。
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