研究課題
細胞内の全タンパク質の約1/3は小胞体を通過して合成されることが知られている。しかし、様々な環境要因や遺伝子変異などにより小胞体内では折畳み異常の不良タンパク質が蓄積する。細胞は、このような小胞体ストレス状況に対抗するため、小胞体シャぺロンによるリフォールディングや小胞体関連分解(ERAD)を 介し不良タンパク質の蓄積を軽減する。また一方で翻訳抑制やmRNA分解を介して小胞体へさらなるタンパク質が輸送されることを防ぐ。近年、新たな小胞体負荷を避ける機構として、小胞体の予防的品質管理(ER stress-induced pre-emptive quality control: ERpQC)が報告された。ERpQCは、小胞体に挿入されるべきシグナル配列を持つタンパク質を細胞質で翻訳し直接分解する機構であるが、そのメカニズムは不明な点が多く残されている。本研究では、ERpQCの分子機構ならびに生理的意義と、その破綻による疾患の病態機構を解明することを目指している。 当該年度の研究により、ERpQCを制御する分子を特定することができた。小胞体ストレス時にERpQCが正しく機能しないと、細胞質側のタンパク質恒常性が破綻し、様々な分解系が亢進することが明らかとなった。さらに生理的意義の解明のため、分泌タンパク質などの合成の盛んな肝臓由来の細胞を用いた解析から、ERpQCが働かないと細胞質に異常なタンパク質凝集体が蓄積し、細胞が脆弱になることを明らかとした。本研究結果は、タンパク質合成の盛んな膵臓や、肝臓といった組織での小胞体への負荷を軽減するシステムの分子機構の解明に繋がり、小胞体の恒常性の破綻が原因となる疾患への治療標的になることが期待される。
2: おおむね順調に進展している
申請時の研究実施計画どおりに、ストレス時に小胞体の恒常性維持に働く小胞体の予防的品質管理(ER stress-induced pre-emptive quality control: ERpQC) について、その制御を行う分子を生化学的に特定することができた。さらに、小胞体ストレス時にERpQCが正しく機能しないと、細胞質側のタンパク質恒常性が異常となり、様々な分解系が亢進することが明らかとなった。さらに生理的意義の解明のため、分泌タンパク質などの合成の盛んな肝臓由来細胞を用いたところ、ERpQCの機能不全は細胞内に異常なタンパク質凝集体を蓄積させ、細胞が脆弱になることを明らかとした。以上の研究成果は学会や研究会などで発表し、多くの貴重なご意見をいただくことができ、今後の課題へのアプローチに繋がった。
昨年度の成果をさらに発展させるため、本年度は (1)ERpQC基質がどのようにして、小胞体への輸送経路から細胞質への分解経路へその運命を変えるのか、 (2)ERpQC基質になるものとならないものの振り分けはどのように決定されているのか、(3)ERpQCの破綻は個体レベルでどう影響を及ぼすか、といった課題につ いて、タンパク質分泌の盛んな肝臓の細胞や異常タンパク質蓄積と疾患が注目される神経の細胞、さらにマウスを用いて生化学的・分子生物学的手法からアプローチしていく。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件)
Life Sci. Alliance
巻: 3 ページ: ー
10.26508/lsa.201900576