研究課題/領域番号 |
18K06227
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
斉藤 康二 北里大学, 理学部, 講師 (70556901)
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研究分担者 |
太田 安隆 北里大学, 理学部, 教授 (90192517)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ポドサイト / 突起構造 / Rac / PAK / FilGAP |
研究実績の概要 |
腎糸球体上皮細胞(ポドサイト)は、細胞骨格に支えられた突起構造が発達しており、その形成と維持が腎臓の濾過機能には必須である。アクチン細胞骨格の制御に重要な役割を果たすRho small GTPase であるRacの過度な活性化が突起形成を阻害することから、その活性の抑制が突起形成に重要であると考えられているが、その詳細な分子メカニズムは不明である。昨年度、ポドサイトにおいてRac活性の抑制に働く分子として、Rac特異的な不活化因子(GAP)であるFilGAPを同定し、FilGAPがその突起構造の形成と維持に重要な役割を果たしていることを明らかにした。本年度は、1) Rac活性の上昇がなぜ突起形成を阻害するのか、2) FilGAPの機能がどのように制御されているのか、この2点に焦点を当てて研究を行った。実験には昨年度同様、ラットポドサイト由来C7細胞株を用いた。C7細胞はフォルスコリン(FSK)で処理すると生体に近い突起構造を誘導できる実験系である。1) Racシグナル下流で働く標的分子の一つであるリン酸化酵素(キナーゼ)PAKの関与を調べた結果、Racの恒常活性化型変異体の発現によって阻害された突起形成は、PAKの阻害剤(IPA-3)処理によって一部回復した。FilGAPのノックダウンによる阻害効果もIPA-3処理によって回復した。逆に、PAKの恒常活性化型変異体を発現させるとRac同様に突起形成が阻害された。したがって、Racのシグナル下流で少なくともPAKが活性化すると突起形成が阻害されることが示唆された。2) 昨年度、FilGAPの活性化に関与することが報告されているROCKキナーゼは、ポドサイトの突起形成においては関与していないことを明らかにした。本年度、FilGAPの機能制御に関わるイノシトールリン脂質であるPIP3が突起形成に関与する可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度、Racの過度な活性化がポドサイトの突起形成を阻害すること、その活性の抑制にRac GAPであるFilGAPが関与していることを明らかにした。本年度はさらに解析を進め、上記1) 2)に焦点を当てて研究を行なった。まず、Rac下流の分子メカニズムを調べた結果、少なくともそのエフェクター分子の一つであるPAKの活性化が突起形成を阻害することを明らかにした。本研究は、FSKによって突起形成が誘導されるポドサイト細胞株を用いて実験を行なっている。実際、その処理によって突起形成が誘導されたとき、RacとPAKの活性は低下していたことからも、Rac/PAKシグナルの抑制が突起形成に重要であると考えられる。次に、FilGAPの機能制御に関して、昨年度はROCKによるFilGAPのリン酸化は突起形成には関与しないことを明らかにした。本年度は他の制御メカニズムを調べた結果、PIP3が突起形成に関与する可能性が示唆された。実験は、細胞膜上のPIP3産生を促進するキナーゼであるPI3Kの阻害剤(wortmannin)処理やPIP3の脱リン酸化酵素であるPTENの発現を行なった。その結果、wortmannin処理およびPTENの発現によって突起形成が阻害された。さらに、FSK処理に伴い、PI3Kの活性化の指標になるAktのリン酸化が上昇していたことからも、PIP3が突起形成に重要な役割を果たしていると考えられる。PIP3との結合がFilGAPの機能にとって重要であることを所属研究室では以前明らかにしており、おそらくPIP3下流でFilGAPが突起形成を制御していると推察している。以上、研究はここまで順調に成果を上げており、ポドサイトの突起形成を制御する分子メカニズムの一端が明らかになりつつある。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題では以下の4つを当初研究計画として挙げていた:①FilGAPのポドサイトの突起形成への関与 ②ROCKによるFilGAPのリン酸化の突起形成への関与 ③突起形成におけるRacシグナル下流の分子メカニズム ④突起形成におけるFilGAPの機能制御メカニズム。これまでに①②は終了し、本年度は③④(上記1) 2))についていくつかの成果を挙げた。最終年度は③④に関してその分子メカニズムをさらに解析する予定である。まず③では、Rac/PAKシグナル下流の分子メカニズムを明らかにする。すでに、PAKによってリン酸化される中間系フィラメントの一つであるvimentinに着目しており、Ser55のリン酸化がその脱重合を引き起こすことが知られている。Vimentinから構成される中間系フィラメントはポドサイトの突起構造を支える重要な細胞骨格である。これまでに、Ser55のリン酸化がFSK処理によって顕著に減少することを明らかにしている。そこで、Ser55の擬似リン酸化型変異体(S55E)を作製し、vimentinのノックダウンもしくはノックアウト株に遺伝子導入して突起形成への影響を調べる。Vimentinのリン酸化が関与していなかった場合、他のPAKの標的分子(LIMK, MLCKなど)について調べる。次に④について、これまでの結果からPIP3が突起形成に重要であることは示唆されたが、FilGAPの機能制御との関連は不明なままである。そこで、PIP3と結合しないFilGAPの変異体(R39C)をFilGAPのノックダウンもしくはノックアウト株に遺伝子導入して突起形成への影響を調べる。PIP3と関連がなかった場合、他のFilGAPと相互作用する分子(FilaminA, Arf6など)について調べる。
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