研究課題
出芽酵母では、20~30個ほど出芽した母細胞はその分裂過程で細胞老化が進み分裂能を失うことから、寿命研究のモデルとして広く活用されている。老化の要因として母細胞と娘細胞間での細胞内成分の不均等分配が知られている。そのなかでも研究代表者らが同定した母細胞に不均等に分配される古いタンパク質について、その細胞老化への関与を明らかにすることが本研究課題の目的である。そのために具体的には、短寿命または長寿命変異株と野生株とでタンパク質不均等分配を比較するとともに、初期老化段階での母細胞で古いタンパク質を新規合成分子に置換した際の分裂余命への影響を明らかにする。今年度は主に短寿命変異株でのタンパク質不均等分配の解析を進めてきた。野生株ではその手法を既に確立しているが、短寿命となるSIR2遺伝子の(ヒストンアセチル化酵素をコード)欠損変異株ではとくに解析手法のカギとなる同調培養の最適条件が野生株とは異なることが判明した。そのため同調培養と、それに加えて母細胞と娘細胞の分離の最適化をはかった。その結果、G1期の細胞を得るための前培養時間および細胞培養スケールの最適化を実現することができ、再現性のある安定した不均等分配の解析が可能となった。実際に短寿命変異株で同定された不均等分配タンパク質は、野生株と比べてその種類や量比が異なることが明らかとなった。これは、古いタンパク質の不均等分配が酵母の分裂寿命に何かしら関わっている可能性があることを示唆しており、本研究において意義のある重要な結果である。今後は、複数回の解析を重ねることで短寿命変異株と野生株とのタンパク質不均等分配の差異をより大規模に解析するとともに、長寿命変異株についても同様の比較を行い細胞老化への不均等分配の関与を明らかにする。
3: やや遅れている
分裂寿命が異なる株間で古いタンパク質の不均等分配の差異を明らかにすることが、本研究課題の目的の一つであるが。今年度は短寿命変異株のみの解析を実施するにとどまり、長寿命変異株と野生株との比較解析を行うことができなかった。その主な要因は、野生株で確立した解析手法の条件が必ずしも用いた短寿命変異株(SIR2遺伝子欠損株)には適用できなかった点にある。そのため、解析手法の最適化に時間を要し、長寿命変異株での不均等分配の解析までは至らなかった。今後は複数の短寿命および長寿命変異株を対象に解析する予定であるため、同様の問題が生じる可能性もある。しかしながら、とくに同調培養に必要なG1期の細胞を得る培養条件など、最適化に必要となるポイントを把握できたことから、他の寿命変異株の解析では今年度よりは迅速なデータ取得が可能であると考えている。初期老化段階の細胞内で特定の古いタンパク質を新規分子に置換する実験系については、必要な株やプラスミドならびに細胞分離条件の検討に着手し、研究期間2年目での実験系の確立を目指している。当初は1年目での実験系構築を計画していたが、全体の0.1%しか含まれない初期老化母細胞の単離が想定以上に困難であり、多くの条件や用いる試薬類の検討に労力を要したため、計画よりは少し遅れている。
研究計画に記載したように、今後も引き続き寿命変異株と野生株でのタンパク質不均等分配と、特定の不均等分配タンパク質の分解・再生による寿命への影響を解析していく。とくに寿命変異株での解析については、短寿命変異株と長寿命変異株について複数の遺伝子変異株を対象とした比較解析を行い、母細胞への不均等分配される古いタンパク質について分裂寿命の違いに応じてその動態が異なる分子群を同定する。特定の不均等分配タンパク質の分解・再生実験系では、とくに10回ほど分裂した初期老化段階の母細胞を高効率で単離する方法と、その後の分裂寿命の簡便な評価が実験系全体のカギとなるため、これらに注力して解析系の確立を進めて行く予定である。
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