出芽酵母は、母細胞と娘細胞に非対称に分裂する特性を生かし、細胞分裂に伴う老化、すなわち分裂寿命のモデルとして古くから利用されている。母細胞は20~30回ほど分裂すると細胞老化によりその分裂能を失う一方で、娘細胞はあらたに20~30回ほど分裂する。母細胞と娘細胞ではこのような老化状態の不均等性があるが、それには、量細胞間での凝集タンパク質や機能低下した細胞内小器官などの質的または量的な差異が関連していることが知られている。とくに、これまで研究代表者らは分裂時に母細胞に優先的に蓄積される古いタンパク質を数十種類同定してきた。本研究課題ではそうしたタンパク質不均等分配の細胞老化への関与を明らかにすることを目的とした。そのために、寿命の異なる酵母変異株における古いタンパク質の不均等分配を解析し野生株と比較することで、分裂寿命と不均等分配の関係性を調べた。出芽酵母での代表的な短寿命変異株(sir2欠損株)と長寿命変異株(fob1欠損株)を作製し、それらの分裂寿命の評価とタンパク質不均等分配の質量分析を用いた解析を行った。古いタンパク質の不均等分配を解析したところ、とくに短寿命変異株において、野生株と比べて不均等分配されるタンパク質の種類や量比が異なることが明らかとなった。タンパク質の不均等分配が細胞老化に関連している可能性が示唆された。次に、初期老化段階の母細胞で古いタンパク質を新規生合成分子に置換することによる分裂余命への影響の解析を試みた。そのためには、10回ほど分裂した細胞集団から約1000分の1しか含まれない初期老化時期の母細胞を単離する必要があり、そうした困難さから実験系の確立には至らなかった。当初の研究計画に対し目標が達成されなかった内容はあるものの、研究全体を通して母細胞の分裂寿命におけるタンパク質不均等分配の関連性を検証することができたと考える。
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