研究課題/領域番号 |
18K06229
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研究機関 | 東京工科大学 |
研究代表者 |
十島 純子 東京工科大学, 医療保健学部, 教授 (00431552)
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研究分担者 |
十島 二朗 東京理科大学, 基礎工学部生物工学科, 教授 (00333831)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | GPCR / エンドサイトーシス / 細胞内輸送 |
研究実績の概要 |
Gタンパク質共役型受容体(GPCR)は様々な生理活性物質をリガンドとする細胞膜上受容体であり、創薬の主要な標的として重要な分子である。GPCRは特異的なリガンド分子の結合より活性化されるが、その不活性化はエンドサイトーシスによる細胞膜からの排除により制御されている。これまでの研究で、研究代表者らは、活性化したGPCRを特異的に標識する新しい蛍光GPCRマーカーの開発に成功し、そのマーカーを用いたエンドサイトーシス関連遺伝子の網羅的なスクリーニングを行なった。その結果、エンドサイトーシスに異常のある多数の出芽酵母変異体の単離に成功した。本研究は、スクリーニングにより得られた変異体の詳細な解析を通して、GPCRのエンドサイトーシス機構の全容を明らかにすることを目的とする。現在までに開発された医薬品の約50%はGPCRに作用する薬剤であり、本研究はそれらの疾患の原因の解明や、治療法の開発のための基盤となることが期待される。 本研究では、(1) GPCRのクラスリン小胞への取り込みにおける細胞膜脂質成分の役割、(2)細胞内へと取込まれたGPCRの初期エンドソームへの輸送機構、(3)GPCR輸送におけるゴルジ体-エンドソーム-リソソーム間の輸送制御機構の解明、の3つのプロジェクトが進行中である。 本年度は主に研究課題(1)について、PtdIns(4)とPtdIns(4,5)P2のGPCRの取り込みにおける役割と、細胞内輸送における役割の詳細な解析を行った。エンドサイトーシス過程においてPtdIns(4)PとPtdIns(4,5)P2はそれぞれ異なる役割を持ち、エンドサイトーシスを段階的に制御していることを明らかにした。また、PtdIns(4)Pによるポストゴルジ体輸送経路を介したエンドサイトーシス制御の可能性を示唆する実験結果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究課題 (1) GPCRのクラスリン小胞への取り込みにおける細胞膜脂質成分の役割、について予定していた研究を実施し、一定の成果を得た。 これまでの研究で、細胞膜の脂質組成がクラスリン小胞の形成もしくはGPCRの小胞への取り込みに重要であることが示唆されている。そこで、細胞膜で働くホスファチジルイノシトール(PtdIns)4キナーゼであるStt4、およびPtdIns(4)リン酸5キナーゼであるMss4について、温度感受性変異体を作成し、この変異体株(stt4-1変異体, mss4-1変異体)におけるPtdIns(4)PおよびPtdIns(4,5)P2の変化を調べた。その結果、stt4-1変異体では細胞膜におけるPtdIns(4)Pの著しい減少が、mss4-1変異体ではPtdIns(4,5)P2の著しい減少が認められた。これらの結果から、エンドサイトーシス過程においてPtdIns(4)PとPtdIns(4,5)P2はそれぞれ異なる役割を持ち、エンドサイトーシスを段階的に制御していることを明らかにした。一方、PtdIns(4)Pは、ゴルジ体に局在するPtdIns4キナーゼであるPik1によっても産生される。そこでPik1についても、温度感受性変異体を作成し、クラスリン小胞の形成やその取り込みに与える影響を解析した。その結果、クラスリン小胞の形成には異常が見られない一方,エンドソーム―液胞間の輸送に著しい遅延が見られた。また、エンドソーム間融合および成熟を調節するRab5 の酵母ホモログであるVps21pの局在を調べたところ、pik1変異体では部分的な活性の低下が認められた。この結果は、PtdIns(4)Pによるポストゴルジ体輸送経路を介したエンドサイトーシス制御の可能性を示唆している。
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今後の研究の推進方策 |
研究課題(1)についてはPik1によるゴルジ体のPtdIns(4)Pの産生がエンドサイトーシスに及ぼす影響を詳細に解析する。具体的には、エンドソーム間融合および成熟を調節するRab5 の酵母ホモログであるVps21pの局在やその活性化因子であるvps9の局在を解析する。また、ゴルジ体からの小胞輸送に働くクラスリンアダプタータンパク質の局在やその欠損体を作製し、エンドサイトーシスへの影響を調べる。研究課題(2)についてはRhoファミリータンパク質の温度感受性変異体を作製し、更にこれらの多重変異体を作製することで、ファミリー間の機能重複性を明らかにしていく。研究課題 (3)については、正常細胞と変異体細胞でpHRodo-α-factorの取り込みの比較を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画(1)に関しては予定どうり実験が実施できたが、H30年度に研究を開始する予定であった研究計画(2)「細胞内へと取り込まれたGPCRの初期エンドソームヘの輸送機構」について、予定していた実験が実施出来なかったため、繰越金が発生した。具体的には、精製したアクチン関連タンパク質のアクチン重合への影響を解析する予定であったが、これらのタンパク質の精製ができず、遺伝子クローニングの段階での問題点が明らかとなった。現在これらの作製に取り組んでおり、タンパク質の精製が出来た時点で実験を再開する。アクチン重合関連の試薬は高額でかつ、不安定な物性であるため、使用する直前に購入することが望ましい。よって、H30年度使用予定であった金額を次年度に繰り越し、2019年度の研究で使用することとした。また、2019年度は研究計画(3)「GPCR輸送におけるゴルジーエンドソームーリソソーム間の輸送制御機構の解明」に用いる蛍光マーカー関連試薬の購入も予定しているため、これらの物品費に不足が生じないよう、余裕を持って次年度への繰越金とした。
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