研究課題/領域番号 |
18K06235
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
木村 誠 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 専任研究員 (00290891)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 核輸送 / importin / 細胞分化 |
研究実績の概要 |
ヒト細胞では、発現蛋白質の30%以上が20種のimportinβファミリー輸送因子の分担により核-細胞質間を輸送されると見積もられている。同ファミリーのうちimportinβのみは、importinαファミリー蛋白質を結合アダプターとして、より多種の蛋白質を輸送する。個々の輸送因子が受けもつ輸送基質蛋白質グループには、それぞれ特定の細胞内プロセスに関わるものが多く含まれることが明らかとなっており、様々な細胞活動の過程では、輸送因子の発現量や活性の選択的な調節により、核局在する蛋白質が最適化されると予想できる。この機構の重要性を示すため、多数の基質蛋白質の核輸送調節による細胞制御機構の研究を進めている。 研究初期段階では、老化(セネッセンス)、神経分化、筋分化、血球分化などの誘導が可能なヒト、マウス、ラットの培養細胞で、ウェスタンブロット法により、各過程における19種類のimportinβファミリー輸送因子、6種類のimportinαファミリー蛋白質、輸送サイクル駆動に関与する5種類の蛋白質の発現量の解析を行い、それぞれの誘導過程で発現変動が見られる輸送因子を特定した。続いて、輸送因子の顕著な発現変動が見られた分化誘導系での核内蛋白質の変動を解析するため、核蛋白質の分離方法の検討を行った。細胞種により、また、分化誘導の前後で細胞の性質が異なることから、解析対象に応じた分画法を設定した。その分画法により分化誘導の前後で核蛋白質を抽出し、質量分装置(LC-MS/MS)により、総蛋白質、核蛋白質のラベルフリー定量を行なった結果、この方法により分化誘導前後で顕著に核内濃度が変化する多数の蛋白質の同定が可能であると確認された。 複数の報告がある輸送因子特異的基質の大規模同定の情報を利用し、輸送因子発現変動と蛋白質核局在の関連の解析へ進む予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
細胞活動における核-細胞質間輸送調節の重要性を示すため、細胞分化に伴い発現調節される輸送因子と核局在が変化する一群の蛋白質の特定を試みている。まず、誘導可能な各種の培養細胞分化系から輸送因子の発現量が顕著に変化する細胞分化系を選出した。次に、分化誘導の前後で核局在が変化する蛋白質を同定するため、核蛋白質の質量分析法による解析へ進んだ。しかし、選定した細胞は、核膜の性質が通常の細胞とはかなり異なると考えられ、また、分化の前後で形態が大きく変化するため、予定した核蛋白質の分離方法を大幅に改変する必要が生じ、この方法の検討に大きく時間を費やした。また、折からの新型コロナウィルス感染拡大のための勤務制限や輸入品の納品の遅れも加わり、進捗はやや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
報告された複数の輸送因子特異的基質の大規模同定実験の結果を参照して、選定した培養細胞分化誘導系で分化に伴い発現が上昇・低下する輸送因子と核局在が変化する基質蛋白質の対応関係を調べ、分化過程へ関与する輸送因子を推定する。注目した輸送因子の発現を分化誘導と並行したsiRNA法による発現抑制、または、プラスミド導入による過剰発現により改変操作した場合の分化前後の核内蛋白質を質量分析法により定量して、その輸送因子の発現変動に依存して核局在が変化する基質蛋白質を特定する。また、輸送因子を発現抑制・過剰発現した細胞内で、特定した基質蛋白質の核局在変化を蛍光抗体法による顕微鏡観察で確認する。さらに、基質蛋白質の機能的相互作用について、発現操作と顕微鏡観察を含む細胞生物学的解析、生化学・分子生物学的な核内反応解析、網羅的発現解析など、注目する蛋白質群に応じた方法で解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
作業の効率化のため当初計画を変更し、まず、各種の培養細胞分化誘導系で輸送因子の発現変動を解析し、解析対象とする細胞分化系を検討した。そこで選定した細胞の特性から、核蛋白質の分離方法に改良を加える必要が生じたため、その検討に時間を要した。また、新型コロナウィルス感染拡大の影響も加わり、進捗は遅れた。これにより、以後に予定する質量分析実験に必要な試薬購入・分析依託が先送りされた。令和4年度内に使用する計画である。
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