ヒト細胞では、核蛋白質の大半が20種のimportinβファミリー輸送因子の分担により核-細胞質間を輸送される。同ファミリーのうちimportinβのみは、importinαファミリー蛋白質を結合アダプターとして、より多種の蛋白質を輸送する。個々の輸送因子が受けもつ輸送基質蛋白質グループには、それぞれ特定の細胞内プロセスに関わるものが多く含まれており、様々な細胞活動の過程では、輸送因子の発現量や活性の調節により、核局在する蛋白質が最適化されると予想できる。これを実証するため、核輸送調節による細胞制御機構の研究を行った。 初期段階では、老化(セネッセンス)、神経分化、筋分化、血球分化などの誘導が可能な培養細胞で、ウェスタンブロット法により、各過程におけるimportinα/βファミリー輸送因子、輸送関連因子の発現量の解析を行った。そのうち、輸送因子の顕著な発現変動が見られたヒト単球由来THP-1細胞のマクロファージ様細胞への分化誘導系で、分化前後の細胞の総蛋白質、核蛋白質を調製し、ラベルフリー質量分析法による定量を行なった結果、分化後の核内では、蛋白質分解に関与する蛋白質が増加しており、DNA 合成や染色体構築に関わる蛋白質は減少していた。これは、分化誘導により細胞増殖が停止するTHP-1分化過程の性質と整合しており、また、少数ながら知られる輸送因子特異的基質の核局在の予想とも矛盾せず、輸送因子の発現変動と細胞分化の相関が確認された。 THP-1分化過程で最も顕著に発現が上昇する輸送因子は、importinα5であった。これをsiRNA導入により発現抑制したTHP-1細胞、および、対照細胞での分化誘導後の核蛋白質を同様の方法で定量し、この分化過程でimportinβ/importinα5ヘテロダイマーにより核内輸送される蛋白質の候補を同定した。
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