研究課題/領域番号 |
18K06240
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
林 良樹 筑波大学, 生存ダイナミクス研究センター, 助教 (30508817)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 生殖系列 / メチオニン代謝 / レトロトランスポゾン / S-アデノシルメチオニン / キイロショウジョウバエ / N6mA修飾 / エピゲノム |
研究実績の概要 |
ショウジョウバエ卵形成過程におけるS-アデノシルメチオニン(SAM)の産生抑制が、レトロトランスポゾンの抑制を司る仕組みを明らかにすることを目的としている。申請段階において、卵形成過程の生殖系列ではSAM合成酵素(Sam-S)の発現が抑制されているために、SAMの産生が抑制されていること、生殖系列においてSam-Sを強制発現した場合、生殖系列におけるSAMが上昇し、レトロトランスポゾンの発現が上昇することを明らかにした。これらの結果は、生殖系列におけるSAMの産生抑制は、レトロトランスポゾンの抑制に寄与することを示している。本年度は以下の研究によりSAMの産生抑制がレトロトランスポゾンの抑制を司る仕組みを明らかにすることを試みた。 1:SAMの産生抑制がpiRNAの産生に与える影響の解析:SAMの上昇した生殖系列において、レトロトランスポゾンの分解を司るpiRNA産生経路の機能を検証した。SAMが上昇した卵形成過程において、piRNA産生経路に関与する因子の発現や、piRNAの産生状況を検証しところ、SAMの上昇した卵巣において、piRNAの産生経路は影響を受けないことを確認した。 2:MedIP-Seq.によるゲノムDNAのメチル化修飾(N6mA修飾)状態の検証:SAMは細胞内のメチル基供与体として知られる。そこで本年度は特にSAMの産生抑制がゲノムDNAのメチル化修飾状態に与える影響について、MedIP-Seq.法により検証した。その結果、SAMが上昇した卵形成過程において、全ゲノム的にN6mA修飾が上昇していること、さらにレトロトランスポゾン(HetA)の配列において顕著にN6mA修飾が上昇していることが明らかとなった。 以上の結果は、SAMの産生抑制は、ゲノムDNAのメチル化を低く保つことにより、レトロトランスポゾンの転写を抑制することを強く示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究により、SAMの産生抑制によるレトロトランスポゾンの抑制がpiRNA産生制御とは独立した新規機構によること、さらにその仕組みはレトロトランスポゾンのゲノムDNAのメチル化制御によりなされることが強く示唆された。これらの点は、下記の今後の研究の推進方策を決める上で大きな指標となる。これらの結果に加えて、本年度の研究により以下の点に進捗があった。 近年の研究で、SAMの含有量と個体の寿命に関連性があることが明らかになっている。すなわち、SAMの含有量が高い場合、個体の寿命が短くなることが知られている。これらの知見は、加齢に伴う組織の機能低下(老化)においてもSAMが重要な役割を果たしていることを示唆している。 本研究は卵形成過程におけるSAMの産生抑制の意義について、レトロトランスポゾンの抑制を中心に解明することである。レトロトランスポゾンの活性化はゲノム損傷を招き、老化を加速させる要因になる可能性がある。この可能性の検証のため、加齢に伴う卵形成能の低下がSAMの上昇により加速されるかを検証したところ、加齢に伴う生殖幹細胞数の減少、および卵形成過程における異常の発生率がともに促進されることが明らかとなった。このことは、卵形成過程におけるSAMの産生抑制は、加齢に伴う卵形成能の低下を遅延させる働きがあることを強く示唆している。このような点は、本研究の主眼であるレトロトランスポゾンの抑制機構の解明に加えて、今後、SAMの産生抑制が果たす意義として解明を進めていく必要がある点であると考える。
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今後の研究の推進方策 |
上記のように、SAMが上昇した卵巣においてはレトロトランスポゾンに加えて、全ゲノム的にN6mA修飾が上昇することが明らかとなった。今後はこれらN6mA修飾が遺伝子発現に与える影響を解析するために、野生型卵巣およびSAM上昇卵巣を対象としたRNA-Seq.により遺伝子発現解析を行う予定である。これにより得られた結果を、N6mA修飾を対象としたMedIP-Seq.の結果と照らし合わせることで、SAMの上昇がゲノムのメチル化および遺伝子発現制御に与える影響を解明する。その際、今回、解析の対象となっているHetA以外のレトロトランスポゾンの発現に与える影響およびDNAメチル化状態も合わせて検証することで、SAMの上昇がレトロトランスポゾン全般の発現に影響をあたえるか検証する。 上記のように、レトロトランスポゾンの一つであるHetAは、SAMの上昇に伴いN6mA修飾の増加および発現の上昇が確認された。今後はHetAを対象として、N6mA修飾の増加がHetAの発現上昇を引き起こす要因になるかを、遺伝学的操作(N6mA修飾の脱メチル化酵素の強制発現等)や、レポーター解析(HetAのプロモーター領域をGFPやLuc等に結合したレポーターを用いた発現およびメチル化解析)により明らかにしていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
H30年度に行なったMedIP-Seq.について、共同研究者との協議の結果、想定よりも少ない実験回数で実施したため、この費用がかからなかった。一方で、H31年度に実施を予定するRNA-Seq.解析については、想定よりも多い種類のサンプルに対して行うことが計画されている。このため、生じた未使用額については、H31年度の遺伝子発現解析に用いることを計画している。
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