研究課題/領域番号 |
18K06241
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
馬場 忠 筑波大学, 生命環境系, 教授 (40165056)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 卵管 / 精子 / 受精能獲得 / マウス |
研究実績の概要 |
本研究では、精子の卵管内移動の仕組みを詳細に調べ、その移動時に起こる精子の受精能獲得の制御機構を明確にすることを目的としている。精嚢で精子に付着した精漿タンパク質SVS2が精子の卵管移動中に消失することを根拠として、精子からのSVS2分解除去が受精能獲得の要因であるという仮説のもとで、マウスの実験系で(1)精子の卵管移動機構と(2)精子からのSVS2除去機構に関して研究を行う。 精子のアクロソームとミトコンドリアでそれぞれEGFPとDsRed2が発現しているトランスジェニック(TG)オスマウスを野生型メスマウスと交配させ、交尾後に卵管を摘出した。卵管は卵管峡部から卵管膨大部の間で7部位に分け、各部位に存在する精子数を測定した。また、アクロソーム反応遅延があるACR欠損マウスや異常なアクロソーム構造を有し低妊孕性のACRBP欠損マウスをそれぞれ上記TGマウスと交配させて作製したオスマウスも調べ、それらの精子の卵管移動状況を野生型マウスと比較検討した。 まず、TGマウスを調べたところ、卵管峡部に200以上の精子が存在していた。また、卵管峡部から卵管膨大部へ近づくにつれて精子数は急激に減少し、卵管膨大部では10~20の精子が見いだされた。興味あることに、卵子ごとにほぼひとつの精子が位置していた。ACR欠損マウスでは、卵管の各部位で野生型マウスとほぼ同数の精子が観察された。一方、ACRBP欠損マウスは卵管峡部で野生型マウスの半数以下の精子しか見られなかったが、卵管膨大部には野生型マウスとほぼ同数の精子が存在していた。しかし、ACRBP欠損精子の多くは卵子と異なる位置に見いだされた。さらに、ACRBP欠損マウスでは、精子が子宮から子宮卵管接合部へ移行する際に異常な精子が淘汰されていた。以上の結果より、精子の卵管移行では卵管峡部の通過が特に重要であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現時点で自己点検すると、精子の子宮と卵管の移動に関して野生型マウスだけでなくいくつかのノックアウトマウスでもデータの再現性が得られ、ある一定の成果があがっていると考えられる。しかし、研究目的である精子受精能獲得の制御機構の解明までは到達しておらず、今後とも研究を効果的に進展させているところである。また、今年度の実績概要には記載しなかったが、精子からのSVS2除去機構の解析に関しても研究を進行させており、ある程度の成果があがっている。
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今後の研究の推進方策 |
この研究計画を遂行する上での変更点などは特にないが、精子に付着したSVS2の分解除去で機能する卵管プロテアーゼの同定で困難が生じている。ここがこの研究の大きなヤマであり、これさえ順調に進展すれば広がりが見えてくると考えられる。おそらく候補プロテアーゼの量的・質的な問題であり、酵素タンパク質が自己分解している可能性もあるため、さまざまな観点から検討を加えて克服していきたいと思っている。また、業者委託などアウトソーシングによって複数の方向から進めていく方策もあると考えられる。
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次年度使用額が生じた理由 |
卵管プロテアーゼの同定に関する研究に遅延が生じたため。
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