研究課題
本研究では、精子の卵管内移動の仕組みを詳細に調べ、その移動時に起こる精子の受精能獲得の制御機構を明確にすることを目的としている。精嚢で精子に付着した精漿タンパク質SVS2が精子の卵管移動中に消失することを根拠として、精子からのSVS2分解除去が受精能獲得の要因であるという仮説のもとで、マウスの実験系で(1)精子の卵管移動機構と(2)精子からのSVS2除去機構に関して研究を行う。まず、低妊孕性のACRBP欠損マウス精子の卵管内での挙動を野生型マウスと比較検討した。自然交尾後に卵管膨大部まで移動してきた精子はすべてアクロソーム反応をしており、卵管から回収した精子の運動性や形態は野生型とACRBP欠損マウスで有意な差がなかった。これらの結果から、ACRBP欠損精子の低妊孕性は、精子の子宮から子宮卵管接合部への移行の淘汰よりも、アクロソーム内容物未分散などを含めた不完全なアクロソーム反応のためと考えられた。精子からのSVS2除去機構を明らかにする目的で、SVS2を特異的に分解する卵管プロテアーゼの検索を行った。排卵誘導した野生型マウスの卵管液を野生型マウスの精嚢抽出液と反応させ、SVS2の分解反応を調べた。高塩基性条件下だけでSVS2が時間依存的に分解され、卵管由来のセリンプロテアーゼのSVS2分解への関与が示唆された。実際に、セリンプロテアーゼ阻害剤であるパラアミノベンザミジンを添加すると、SVS2分解は著しく抑制された。また、基質として組換え型SVS2を用いたザイモグラフィーの結果、卵管液中にはほぼ35 kDaと80~150 kDaのセリンプロテアーゼが存在していた。
2: おおむね順調に進展している
現時点で自己点検すると、精子の卵管内挙動に関しては、ほぼ十分な研究成果が得られたと考えている。他方、研究目的のひとつである精子受精能獲得の制御機構の解明までは到達していない。しかし、精子からのSVS2除去に関与すると思われるプロテアーゼのデータが集積され始めたので、今後の研究進展を目指している。
この研究計画を遂行する上での変更点などは、特にない。精子に付着したSVS2の分解除去で機能する卵管プロテアーゼの同定である程度の目途が見いだされたが、さまざまな観点から検討を加えていきたいと考えている。実際に、候補プロテアーゼ遺伝子についてデータベースを探索したところ、TMPRSS4が卵管で特異的に発現していることが確認された。
卵管プロテアーゼの同定に関する研究に若干の遅延が生じたため。
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