研究課題
本研究では、精子の卵管内移動の仕組みを詳細に調べ、その移動時に起こる精子の受精能獲得の制御機構を明らかにすることを目的とした。まず、精子の卵管移動機構を明確にするために、自然交尾後のマウス精子の卵管移動を経時的に調べたところ、卵管峡部に200以上の精子が存在していた。また、卵管峡部では卵管収縮によって生じた卵管液の流れによって精子が運ばれていたが、次第に精子数は減少し、卵管中央部以降から精子は自力遊泳していた。卵管膨大部では10~20の精子が見いだされ、卵子ごとにほぼひとつの精子が位置していた。一方、低妊孕性のACRBP欠損マウス精子の卵管内での挙動を野生型マウスと比較検討したところ、交尾後に卵管膨大部まで移動してきた精子はすべてアクロソーム反応をしており、卵管から回収した精子の運動性や形態は野生型精子と有意な差がなかった。したがって、ACRBP欠損精子の低妊孕性は、精子の子宮から子宮卵管接合部への移行不全よりも、不完全なアクロソーム反応のためであると推察した。次に、精子からの精漿タンパク質SVS2除去機構を明らかにする目的で、SVS2を特異的に分解する卵管プロテアーゼの検索を行った。排卵誘導した野生型マウスの卵管液を調製し、SVS2の分解反応を調べた。高塩基性条件下ではSVS2が時間依存的に分解され、卵管由来のセリンプロテアーゼのSVS2分解への関与が示唆された。実際に、いくつかのセリンプロテアーゼ阻害剤を添加すると、SVS2分解は著しく抑制された。また、卵管液から部分精製したSVS2を用いたザイモグラフィーを行った結果、150 kDa、80 kDaおよび70 kDaのプロテアーゼが検出された。さらに、質量分析を行い、セリンプロテアーゼであるプラスミンを含めた候補タンパク質を同定することに成功した。
すべて 2020
すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)
Proc. Acad. Natl. Sci. USA
巻: 117 ページ: 2513-2518
10.1073/pnas.1917595117