研究課題/領域番号 |
18K06244
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
道上 達男 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (10282724)
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研究分担者 |
山元 孝佳 東京大学, 大学院総合文化研究科, 助教 (70724699)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 細胞張力 / 胚発生 / アフリカツメガエル / 外胚葉パターニング |
研究実績の概要 |
脊椎動物の初期発生においては、原腸形成を経た後、神経胚期までにおおまかな外胚葉の領域が規定される。神経胚期では、外胚葉は神経板、神経堤、プラコード、表皮の4領域が大まかに決められる。これまで、これらの領域規定はBMP・FGFやWntシグナルの仮想的濃度勾配によって決定されると考えられてきた。研究代表者は、その中でも将来感覚器や末梢細胞に分化するプラコード領域の形成機構について、新規遺伝子の解析を通して研究を行ってきた。その過程で、プラコードの形成に細胞張力が関与するのではという着想に基づき、外胚葉領域の各細胞にかかる張力をFRET張力プローブの胚への導入によって計測したところ、神経外胚葉と表皮外胚葉で細胞にかかる張力が異なることを見出した。そこで本研究では、逆に細胞に対して伸展刺激や加圧刺激を加えたとき、外胚葉の予定運命が変化するかどうかを検証することを通し、外胚葉パターンの規定における物理的な力の関与を明らかにすることを目的としている。今年度は、神経板の平面内細胞極性(PCP)に着目し、シリコンチャンバーを用いた伸展刺激、あるいはレーザーアブレーションによる張力緩和によって細胞板の平面内極性が変化するかどうかを検証した。その結果、伸展刺激を加えた場愛、非付加の場合に比べて、細胞極性を生じる細胞の割合が増加した。一方、レーザーアブレーションによって細胞にかかる張力を緩和したとき、生じるべきPCP形成が阻害されることを明らかにした。また、恒常活性型ミオシン軽鎖(caMLC)を微量注入して細胞張力を変化させるとプラコード領域の拡大が見られ、外胚葉パターンの形成に細胞張力が関与している可能性を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、以下の2点について主に研究を行った。(1)神経板における平面内細胞極性(PCP)の形成が細胞張力によって変動するかどうかを検討した。ツメガエルの神経板において、Wntシグナルに関与する膜タンパク質であるprickle3が各細胞の前方部分に局在することが知られているので、このアッセイ系を指標にいくつかの実験を行った。まず、初期原腸胚期の外胚葉領域を切除してシリコンチャンバーに貼り付け、初期神経胚期相当まで伸展刺激を加えた。その結果、伸展刺激を加えた外胚葉片では、伸展を行っていない組織片に比べてprickle3の細胞内局在を示す細胞の割合が増加した。逆に、注目すべき細胞の近傍をレーザーアブレーションにより膜切断して細胞張力を緩和すると、prickle3の特異的な局在が失われる細胞の割合が増加した。これらの結果は、細胞板のPCP形成に細胞張力が関与していることを強く示唆する。(2)遺伝子の異所的な発現によって細胞にかかる張力を人為的に変化させることで、外胚葉の予定運命を変化させることができるかどうか、検証した。まず、胚の腹側にBMP阻害因子tBRを注入して二次軸を誘導することを通し張力を変化させ、一次軸側のプラコード・神経堤領域が拡大・縮小するかどうかを検証したが、大きな変化を見出すには至らなかった。次に、恒常活性型ミオシン軽鎖(caMLC)を着目する細胞の近傍に微量注入することでアクトミオシンの形成を介した異所的かつ領域限定的な細胞張力の付与を行った時に、プラコードをじめとする各外胚葉領域の予定運命に影響を及ぼすかどうかをプラコードで発現するSox3のin situハイブリダイゼーションを行うことで検討した。その結果、caMLC注入によって、プラコード領域が拡大することを見出した。この結果は、少なくともプラコード領域の形成に細胞張力が関与する可能性を示唆している。
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今後の研究の推進方策 |
平成31年度は、以下の研究を計画している。 (1)神経板におけるPCP形成に対する細胞張力の影響については、引き続き伸展装置による張力付与、レーザーアブレーションによる張力緩和時のPCP形成の変化について解析を続ける。また、細胞の形状にも着目し、PCP形成と細胞形状の関連について調べることで、PCP形成への細胞張力の関与について明らかにする。 (2)外胚葉パターンそのもの(特に神経―表皮境界の形成)について、外から様々な力を与えた時の影響の有無を引き続き調べる。前年度PCP解析で行った外胚葉片(細胞シート)の伸展に加え、ガス圧チャンバーによる胚への加圧、吸引装置による胚の一部の吸引により細胞群にかかる張力を変動させ、Sox2、Six1、slug, XK81の発現が変化するかどうかを調べる。状況に応じ、当研究室で用いているFRET張力プローブを注入しておくことにより、実際に胚にかかる張力がどの程度変動するかをモニターする。更には細胞形状にも着目し、張力変動を形の面からも追跡したい。 (3)以上のような、外から加えた力による予定運命の影響が、細胞骨格や細胞骨格関連タンパク質の過剰発現、またはノックダウンによって緩和・増強されるかどうかを調べる。具体的には、細胞骨格としてアクチン、細胞骨格結合遺伝子としてアクチニンやαカテニンに着目し、対応するmRNAを4細胞胚に注入し、同様の実験を行うことで検証する。また、ML7やサイトカラシンなど、ミオシン軽鎖やアクチンの重合を阻害する薬剤で胚を処理した場合の変化についても、胚発生そのものへの影響に留意しながら実験を行いたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成30年度は、主に既存の物品(特に合成済みのmRNAやinsituハイブリダイゼーション用プローブ)を用いて実験を遂行することができた。平成31年度は、新たなRNA合成などや処理試薬を使用するために物品費の使用を予定している。
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