研究課題/領域番号 |
18K06248
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
篠村 多摩之 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 准教授 (70206118)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 軟骨細胞 / II型コラーゲン / アグリカン / 転写制御 / 転写因子 / エンハンサー |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、軟骨組織の修復・再生を目指し、そのために必要な II型コラーゲン及びアグリカン(共に軟骨組織の主成分)の遺伝子発現を制御するための新たな手法を見つけ出すことである。そこでまず基本となる両遺伝子の発現制御機構について、分子レベルでの解析を進めている。 初年度の研究から、(1)それぞれの遺伝子発現は複数のエンハンサーエレメントによって制御されていること、(2)それぞれのエンハンサー活性はヒストンのアセチル化および脱アセチル化を介して更に制御されていること、(3)ヒストンの脱アセチル化反応には特異的なヒストンデアセチラーゼが関与していること、が明らかになった。こうした知見は、軟骨細胞の加齢に伴って起こる遺伝子発現の低下を制御する上で、非常に重要なポイントである。 一方こうした研究を通して明らかになってきたもう一つ重要な点は、DNA の塩基配列を認識できないヒストンデアセチラーゼが、特定のエンハンサーエレメントを修飾するのは、各エンハンサーエレメントに特異的に結合している転写因子を介して行われているということである。そこで第2年度は、主に上述した各エンハンサーエレメントに特異的に結合している転写因子の探索を進めた。探索の第一歩として、データーベース:JASPAR 2020 (open-access database, http://jaspar.genereg,net) を用い、各エンハンサーの塩基配列に対して特異的に結合する可能性が高い転写因子の絞り込みを行った。その結果、少なくとも2種類の転写因子がII型コラーゲン及びアグリカンのエンハンサーエレメントに結合することを突き止めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度までの研究により、我々がこれまでに明らかにしてきた II型コラーゲン及びアグリカンの遺伝子発現を制御している複数のシスエレメントは、機能的に異なっていることが確認できた。中でも重要な点は、エンハンサー領域におけるヒストンのアセチル化状態と遺伝子発現との間に密接な関係があること、そしてこうした遺伝子の発現制御には2種類の脱アセチル化酵素、HDAC10 および Sirtuin 6 が深く関わっていることが明らかになった点である。しかし脱アセチル化酵素自身には DNA に対する結合能力は無いので、特定のエンハンサー領域のみがこれらの酵素によって修飾されることは、それぞれのエンハンサー領域に特別は転写因子(DNAと直接結合するたんぱく質性の因子)が結合していることを意味している。そこで、総数約 1,500 種類あると見積もられている転写因子の中から、各エンハンサー領域に特異的に結合している転写因子の探索を進めた。探索には、幾つかのデーターベースを利用し、以下のような結果を得ている。 1. 各エンハンサーエレメントに特異的に結合している転写因子の候補として、15種類を絞り込んだ。 2. 15種類候補因子のうち、これまでに9種類の転写因子を解析し、2種類の転写因子がII型コラーゲンのエンハンサーに結合することを確認した。 以上の結果は、現在進めている解析を継続することで、それぞれのエンハンサーに特異的に結合している転写因子を明らかにすることが可能であることを強く示唆している。なお、新たに見いだされた転写因子の情報は、今後の研究にとって非常に重要な点であり、新たな展開が期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
前年度までの研究から明らかになっているII型コラーゲンおよびアグリカンの発現に影響を及ぼす2種類の転写因子については、今後それぞれの因子が結合する遺伝子領域を明らかにしていく。その為の手段としては、ChIP-PCR 解析、レポーターアッセイ、遺伝子変異の導入などの方法を用いる。具体的には以下に記載した方法により解析を進める。なお、前年度までに絞り込んだ転写因子のうち、未解析の6種類については、これまでと同様の解析を進めていく。① まずはそれぞれの転写因子に対する特異抗体を用い、 ChIP-PCR 解析により各転写因子の結合部位について、大まかな解析を進める。② 次に、①で明らかになった領域内にある転写因子結合部位と予想される部位に変異を導入したレポーター遺伝子と野生型のレポーター遺伝子を作成し、それぞれの発現に差があるかどうか調べる。③ ②については更に対象とする転写因子のドミナントネガティブ変異体を作成し、その強制発現が野生型及び変異型のレポーター遺伝子の発現に対し違った効果を示すかどうか確認していく。なお、上述したレポーター遺伝子の発現解析には、我々がこれまでに独自に構築してきたサイレントレポーターシステム(参考文献:Gene 585 13-21, 2016)を用いる。 以上の解析は、データーベースに登録されている既知の転写因子(約800種類)についてであるが、未解析の転写因子(約700種類)については、ラットの軟骨肉種細胞と正常軟骨細胞を用いたサブトラクション法を中心に、新たな方法の開発を進める予定である。
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