研究課題
胚発生における重要なイベントに、3つの胚軸 (動植軸、それに直行する軸、左右軸)の決定がある。本研究では脊索動物であるワカレオタマボヤ(以下、オタマボヤ)のもつ特質に着眼して、(1)動植軸と (2) 左右軸ができるしくみの解析を進めた。本年度は、以下を明らかにした。(1) 動植軸について。動植半球のRNA-seqによりリストした、局在RNAの分布を調べたところ、おもしろいことに、未受精卵の段階で植物極側に局在している母性mRNAを3種類見出した。姉妹群のホヤでは、このような母性mRNAは、未受精卵の植物極側にむけた勾配をもっており、受精が引き金になって植物極の近辺に濃縮される、すなわち局在することが知られる (1st phaseと呼ばれている)。オタマボヤではこの1st phaseがなく、未受精卵ですでに母性mRNAが局在していることが明らかになった。(2) 左右軸について。卵割パターンの左右非対称性についてライブイメージングを試みた。具体的には、代表者の所属研究室で、過去に一例のみ記録されていた、「2細胞胚の第一分裂面付近にみられる、突起状の構造」の有無を検討した。微分干渉顕微鏡(DIC)によるタイムラプス撮影を行った結果、この構造体が確認され、また、その向きが個体差のない左右非対称性をもつことを見出した(昔農ら、未発表)。これにより、形態学的には、オタマボヤの左右非対称性が2細胞胚にまで遡れることが分かった。
1: 当初の計画以上に進展している
(1)動植軸については、未受精卵の植物極に局在する母性RNAが存在することが分かった。このようなRNAが3種類も見つかったことで、オタマボヤには、姉妹群のホヤでみられる「受精後の、植物極側への母性RNAの局在(1st phase)」が失われているがほぼ確定した。むろん、開始当初には予想できなかった成果である。(2)左右軸については、昨年度に研究計画をほぼ完了していたが、さらに理解が進み、2細胞胚に左右非対称な構造体がある形態学的な証拠が得られた。以上のように、当初の計画以上に進展している。
(2)は研究計画を完了しているので、ここでは(1)について述べる。以下2つを行う。1つ目は、学会・原著論文での成果発表である。未受精卵に局在する母性RNAについては、ゲノム支援(2015年度)やOISTとの共同研究を通じて得た、一連のRNA-seqのデータが発端となり、たどり着いた発生学的な知見である。約6年間の集大成であるこれらの知見を公表することを目指す。2つ目は、卵巣切片のin situ hybridizationである。オタマボヤは、約半日という短時間で卵形成が完了することや、産卵する卵サイズが一定であり卵形成ステージを顕微鏡下で洞察しやすいことなどの特徴がある。これらを活用して調べることで、卵形成の過程で、いつ、どのように母性RNAの局在が生じ、動植軸に沿った極性ができるのかについて答えが得られると期待している。
次年度使用額が生じた理由は、コロナ禍による大学内での研究活動の自粛要請である。2020年度が最終年度の予定だったが、本年度の前半は上記のため、計画の進捗に偏りが生じた。実施状況に述べたとおり、予定通り完了したテーマもあるが、卵巣切片の染色などの一部の実験が残されたテーマもある。この次年度使用額は、上記の実施のためにもちいる予定である。
研究成果のプレスリリース。国内外の40以上のメディアに取り上げられた。
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すべて 雑誌論文 (9件) (うち国際共著 5件、 査読あり 5件) 学会発表 (6件) (うち招待講演 4件) 備考 (1件)
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