研究課題/領域番号 |
18K06258
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
村上 柳太郎 山口大学, 大学院創成科学研究科, 教授 (40182109)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ショウジョウバエ / 原腸形成 / 内胚葉 / 内臓中胚葉 / 形態形成 / hkb / srp / Ance |
研究実績の概要 |
ショウジョウバエ胚の原腸陥入では内胚葉と中胚葉がそれぞれ別経路で陥入し、その後両者が合体する。本研究計画は、内胚葉と中胚葉が合体する過程で内胚葉から何らかの因子が放出されているという仮定に基づいている。その目的のため、ショウジョウバエ胚の原腸陥入期に、内胚葉で発現する遺伝子を、in situ 画像データベースで網羅的に探索し、候補遺伝子のスクリーニングを行ってきた。その結果、アンジオテンシン転換酵素である Ance が陥入中の内胚葉で特異的に発現することを見出し、内胚葉性の分泌因子の有力候補と考えて、変異体の表現型や他の遺伝子との制御関係等について発生遺伝学的解析を行った。Ance 突然変異胚では、内臓中胚葉の分化が阻害され、内胚葉との合体が起こらないことを見出した。しかしながら、その後の詳細な遺伝子学的検討の結果、Ance 突然変異系統としてストックセンターで維持されている系統には、Ance 以外の変異が入っており、その変異は相補性検定の結果、内臓中胚葉の決定過程で働く jeb 変異である、という予想外の事実が判明した。 この発見を受けて、本年度は内胚葉そのものが形成されない突然変異系統について、内臓中胚葉形成の異常を詳細に観察することに注力した。内胚葉の決定過程の遺伝子制御の最上流に位置する接合子性遺伝子 hkb とその下で活性化する srp の両者について内臓中胚葉の発生を観察したところ、そのいずれも、内臓中胚葉の分化そのものは起きていたが、中胚葉の本体からの分離が起こらず、また、部分的な分離が起きてもその分布に著しい偏りが生じるなどの異常が生じていることがわかった。これらの研究成果の一部は、動物学会中国四国支部大会においてポスター発表を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初、内胚葉が分泌し、内臓中胚葉の発生に作用する因子としてアンジオテンシン転換酵素 Ance に着目して研究を行っていた。Ance 突然変異胚では内臓中胚葉の分化が全く見られないことを見出したからである。使用した変異系統は、ストックセンターから入手した研究者間で流通している系統であるが、詳細な遺伝学的解析を進める過程で、この系統の表現型は、Ance によるものではなく、別の座位の変異である可能性が高いことに気付き、その後の解析で、内臓中胚葉そのものの初期発生に不可欠なjeb と同一である、という予想外の問題が相補性検定の結果明らかとなった。 それを受けて、内胚葉で発現する遺伝子のスクリーニングに立ち戻って研究計画を修正したことにより、当初期待したよりも研究の進行がやや遅れた。
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今後の研究の推進方策 |
現時点で研究計画の変更は必要なく、計画に沿って研究を進めていく。具体的には、内胚葉で発現する遺伝子で、内臓中胚葉の発生、および内胚葉そのものの発生に関係する遺伝子のスクリーニングを引き続き行うとともに、内胚葉欠失変異胚における内臓中胚葉発生の詳細な解析を継続して行う方針である。 また、内胚葉性の遺伝子をスクリーニングする過程で、内胚葉の後半部でのみ発現する遺伝子が見つかり、この遺伝子が原腸形成や中腸の発生にどのような役割を果たしているか、検討を始めている。当初の研究計画からはやや副産物的な発見と言えるが、内胚葉と中胚葉の相互作用による原腸形成、という観点から同じ学術的意義があると考えており、研究計画に沿った実験と並行して進めていく方針である。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験計画では内胚葉が産生する分泌性因子について、計画段階で期待の持てる候補遺伝子Anceを突き止めており、その分子遺伝学的解析に経費を使う予定であったが、当該遺伝子の突然変異系統として流通している系統が、別の座位に変異を持っていること、および、内臓中胚葉の欠損が、Ance 座位ではなく別の座位の変異によることがわかり、実験計画の一部見直しを行ったことによる。 繰越し額については、当初の使用計画を踏襲し、核酸用試薬、及び、飼育培地の経費に充てる。
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