本研究の目的は,ミダレキクイタボヤの有性化のタイミングで発現量が上昇する遺伝子群を中心として,その発現パターンと機能を調べることにより,生殖細胞の供給源としてはたらく生殖系列幹細胞の分化および生殖細胞形成を調節する分子機構を明らかにし,さらに,その発展として,幹細胞ニッチの所在,ニッチから幹細胞への分化調節シグナルの実態に迫ることである。 研究期間を延長した2021年度は,前年度からの継続として,生殖系列の発生に関与する遺伝子を含むTDRD遺伝子ファミリーの発現解析を実施した。トランスクリプトームデータからスクリーニングした12クローンの遺伝子について,定量RT-PCR法により,有性生殖期での発現量が,無性生殖期と比較して上昇することが分かっている2クローンについて,in situ hybridization によりmRNAの発現を調べたが,特異的な発現が検出されなかった。その他の8クローンについてもRNAプローブを合成し,引き続き,発現解析を進めている。 研究期間を全体を通じた実績としては,トランスクリプトームデータの取得およびデータベースの構築を礎として,Sox遺伝子ファミリーの生殖細胞形成における役割を明らかにした。SoxB2およびSoxFは,遺伝子機能をノックダウンすることによって,卵母細胞形成に異常が生じた。これまでに,SoxB2遺伝子が卵形成に関与する例は報告がなく,本研究によって,SoxB2がミダレキクイタボヤにおいて新規の役割を果たしている可能性を示唆している。ミダレキクイタボヤのSoxFは,脊椎動物のSoxFが精子形成に関与するのとは異なり,卵母細胞で発現し,卵形成において重要な機能を持つことが分かった。有性生殖期に発現量が増加するTDRD遺伝子群については,発現パターンの詳細な解析が今後の課題として残された。
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