研究課題/領域番号 |
18K06260
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
今村 寿子 九州大学, 医学研究院, 助教 (30523790)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 細胞運動 / 分岐形成 |
研究実績の概要 |
肺上皮細胞の成長と細胞形状制御による分岐形成については論文発表の準備を進めている。 細胞運動と組織形態の関連については、平板培養系に立ち返って解析を行った。まず細胞集団の界面形状の成長について、実験観察と数理モデル化を行った。上皮性細胞集団では、界面にリーダー細胞と呼ばれる運動性の高い細胞が生じることが知られており、この出現が界面の曲率に依存して生じる可能性を検討した。細胞形態および界面形状の経時的変化を取得したところ、リーダー細胞は界面形成後2時間以内に、界面の凹凸の形成に先んじてランダムに出現しており、少なくとも18時間まで高い運動性を保ち続けているとわかった。このようなリーダー細胞分布が界面形状にどのように関連しているのか調べるため、界面の凹凸の成長をフラクタル解析により評価し、リーダー細胞の挙動を組み込んだ数理モデルによる再現を試みた。計算機シミュレーションと数理解析を行った結果、系に特徴的なハースト指数と成長指数が、リーダー細胞の出現率、運動性、細胞間接着の強度によって決定することが明らかになった。この成果はPhysical Review E誌に掲載された。 多次の分岐形成についても、単純な細胞運動の数理モデルを用いて検討した。マウス大動脈片を培養すると血管内皮細胞の集団が枝状に伸長し分岐を形成することが知られる。この現象について、細長い粒子にランダムな運動と引斥力を組み込んだ数理モデルを構築し、分岐形成の再現を行った。その結果、運動のノイズ、粒子形状、接着力に依存して分岐頻度が異なることが示された。今後は実験的に細胞挙動を操作し、モデル結果との比較を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
肺分岐形成について論文発表が完了できなかった。 一方で、細胞運動や分岐形成といった、形態形成の重要な要素について、理論生物学的な解釈を進めることができた。 実績に記載した研究以外にも、力学的組織変形のモデル系を応用して、植物発生学の共同研究として葉表面の弯曲形成をモデル化し、frontiers in Plant Science誌に発表することができた。
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今後の研究の推進方策 |
肺の分岐形成の数理モデルについて理論解析による補強を行う。 組織変形と細胞運動・増殖制御の相互調節の理解を進めるため、反応拡散系を組み込んだモデル構築を進める。 枝状の組織成長や、力学的組織変形の応用により、植物発生学の共同研究が複数進んでいるので、論文発表を目指す。 血管内皮細胞モデルについて学会発表を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度は感染症拡大により学会の中止やオンライン化が相次ぎ、出張費の支出がなかった。研究環境としても、研究室滞在時間の調整による実験の遅れ、オンライン講義のシステム構築や準備、補講開催といった大学業務の増加があり、進捗が計画よりも少しおくれた。
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