本研究の目的は、マウスES細胞から造血幹細胞(HSC)を分化誘導する培養系の確立である。HSCはマウスの発生において背側大動脈の造血性内皮細胞(HEC)(胎生9~10日)からプレ造血幹細胞(pre-HSC)(胎生10~11日)を経て分化する。そこで、マウス胎仔からセルソーターで単離したHECとpre-HSCを培養してHSCに分化させる実験系の確立を目指した。 最終年度の実績 HECの前駆細胞(胎生8日)から、HEC(胎生9~10日)、pre-HSC(胎生10~11日)を経て、HSC(胎生11日)に至る分化過程を明らかにするために、胎生8日、9日、10日および11日の胚体内大動脈近傍組織について、single cell RNA-seq解析を行った。それぞれの組織におけるsingle cellレベルでの遺伝子発現情報を基に細胞のクラスタリングを行い、HEC前駆細胞、HEC、pre-HSC、HSCを細胞集団として同定した。それぞれの細胞集団に特異的なマーカー遺伝子と活性化しているシグナル伝達経路を明らかにした。 研究期間全体の実績 胎生11日のpre-HSCをサイトカインのみで無血清培養し、移植可能なHSCを誘導することに成功した。胎生10日のHECを血管内皮細胞株と共培養することにより、HSCを誘導することに成功した。胎生9日のHECは、この培養条件ではHSCに分化しない。胎生9日のHECや胎生8日のHEC前駆細胞からHSCを誘導するためには、発生過程に関与するシグナル因子を特定する必要がある。そこで、胎生8日~11日の胚体組織のsingle cell RNA-seq解析を行い、HEC前駆細胞、HEC、pre-HSC のマーカー遺伝子と活性化シグナル伝達経路を特定した。今後、この情報を用いて、それらの細胞を単離・培養してHSCへの分化誘導を行う予定である。
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