研究課題/領域番号 |
18K06263
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
伊藤 尚文 熊本大学, 大学院先導機構, 研究員 (60732716)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 細胞初期化 / 初期発生 / リボソーム / 微生物 / 進化 |
研究実績の概要 |
リボソームをヒト皮膚細胞に取り込ませると細胞分化能をもつが、細胞分裂が停止した細胞塊が形成される(Ito, et al. 2018)。細胞分化は通常は不可逆であるとされているが、人為的にはiPS細胞技術を用いることで多分化能をもつ細胞を構築することができる。しかし、近年細菌が細胞分化を調節することで、生存に有利な環境を作っていることが報告され、細胞分化の可塑性の解明が研究のトピックスとなっている。 この申請の研究ではリボソームを用いて形成される細胞塊が多能性をどのように誘導するのかを突き止めることで、自然界で細菌等の相互作用と細胞多能性の関係性を理解することを目指す。マウス胚性線維芽細胞(MEF)を用いても細胞塊は形成される。コストや解析手法の多様さからMEFを用いて解析を進めた。まず、MEFでの培養条件の検討を行い、比較的合成培地に近い条件(条件1)で細胞塊が形成される条件を見つけた。条件1であっても細胞塊は増殖はしないが、細胞塊から多能性マーカー陽性の小細胞が産出される。細胞塊の細胞周期やオートファジー等に関連する遺伝子発現変動を調べた結果、いくつかの遺伝子の発現変動がみられ、細胞塊形成における細胞分裂の停止と多能性誘導に関係する入り口までのパスウェイが見出された。 一方、同時に培養条件の検討を続けてきたが、培養条件2を発見した。この条件は過去のどの培養条件よりも成分がはっきりと示すことが可能で、標準的な培養条件に近い成分を持っている。条件2では小細胞の産生が最も早く、細胞塊自体の多能性マーカー発現も強く発現する。もっとも特徴的なのは、少なくとも申請者は見たことのない(生殖幹細胞シストに類似した)特殊な形状の細胞を産生することである。今後は、条件2の細胞の発現プロファイルの決定から増殖能を高める条件を見出し、シグナル制御の解明を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
細胞培養条件の検討と同時にシグナル経路の解明を行なったので、どちらも並行して進展させることができた。今年度は試薬の調達や自然災害もなく、ほぼ計画通りの研究を進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
細胞培養条件で好条件が見出せたのが非常によかった。細胞塊の形状は完全に新規で科学的に大変興味深い。 次の解析はqPCR等の簡易なシグナル解析を行ってから、RNA-seq等の大規模解析に進める。RNA-seqはデータ解析に時間がかかるので、年度早々、早めに取り掛かりたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
培養条件の探索で予算のかかる大規模解析の開始時期を考えました。培養条件が見つからなかった場合、そこそこで諦めて、RNA-seqを行う予定でしたが、良い培養条件が見つかったので、予備実験等を行い、使用計画を後側に動かしました。
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