本研究ではリボソームを外部から細胞に導入することで細胞塊を形成し多分化能を誘導する。大腸菌由来のリボソームをマウス胚性線維芽細胞に添加すると細胞塊が形成され、多能性マーカーであるNanogやOct4の発現が免疫染色によって確認された。このマウス細胞塊での多能性マーカーの発現はモザイクパターンであり、ヒト皮膚繊維芽細胞で作出した細胞塊と同じであった。さらにこの細胞塊を胚性幹細胞(ES細胞)の培養条件に近い培養液で培養すると、細胞塊周辺に通常の細胞と比較して小さい細胞(小細胞)が出現した。この小細胞は免疫染色でOct4a陽性であったが、細胞核だけでなく細胞質にも発現がみられる、核構造にも変形が見られた。 細胞塊自体は細胞増殖が停止していることから細胞周期に関する解析を行った。細胞周期阻害剤を細胞塊形成時に添加し、細胞増殖の進行を確認した結果、G1期あるいはG0期に以降するプロセスを阻害すると細胞塊形成が阻害されることがわかった。また、リボソームタンパク質は細胞核においてp53-MDM2に制御される細胞周期の制御に関与していることが知られているため、外部から入れたリボソームの結合とp53経路の発現解析を行った結果、p53-MDM2経路のタンパク質の結合し、p53の分解を阻止していることがわかった。さらに細胞内部での消化プロセスをオートファジーマーカーの発現から調べた結果、オートファジー活性の増加も確認され、細胞の分化能転換にp53経路とオートファジーが関与している可能性が示唆された。
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