研究課題/領域番号 |
18K06265
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
永井 宏樹 熊本大学, 国際先端医学研究機構, リサーチ・スペシャリスト (80772508)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 漿尿膜融合 / ニワトリ胚 / 中皮細胞 / 胚発生 / 胚体外組織 |
研究実績の概要 |
上皮間葉転換(EMT, Epithelial-Mesenchymal Transition)は、上皮性を保持する細胞が細胞極性や細胞間接着などの上皮特性を失うとともに、遊走性や浸潤性などを保持する間葉系細胞へと変貌する、段階的な細胞形態制御プロセスとして知られている。そのうち、中皮細胞の上皮間葉転換(中皮細胞EMT)は、中皮腫や卵巣癌などのヒト疾患、心膜の血管平滑筋細胞や雄生殖腺のセルトリ細胞の供給など、病態進行や器官発生を問わず様々な局面で重要な役割を果たしている。本研究では中皮細胞EMTの誘導・制御メカニズムを理解するため、漿膜中皮と尿膜中皮が接触し融合するニワトリ胚漿尿幕融合を研究モデルとして、作業仮説:『EMTが漿尿膜融合を駆動制御する』の検証を通して、正常な中皮同士の融合過程に介在するEMT誘導制御分子シグナルを探索することを目的としている。 初年度は、独自に規定した漿尿膜融合ステージ(前期・初期・中期)に沿ったCAGE-seq解析により取得した漿尿膜融合組織の遺伝子発現プロファイルから、Gene Ontology解析などにより組織・領域・ ステージ特異的な高発現プロファイルを示す1次解析候補遺伝子のリストアップを実施するとともに、mRNA in situ ハイブリダイゼーションによる遺伝子発現パターンの検証を順次開始した。 これまでに、融合初期から中期にかけて、中皮の接触・融合進展領域で、EMTコア制御因子であるSNAI1やZEB2遺伝子、中皮腫マーカーとして知られるWT1遺伝子、またWnt遺伝子群やFGF受容体(FGFR)遺伝子群などの複数の遺伝子が領域特異的な発現上昇を示すことを明らかにした。また融合中期では、CXCL14遺伝子をはじめとする複数の漿膜特異的遺伝子が融合領域特異的に発現下降を示すことを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ニワトリ漿尿膜は血管新生や腫瘍形成の汎用的な研究モデルとしてよく知られているものの、漿尿膜発生の最初のステップである漿膜中皮と尿膜中皮の融合機序に関する先行研究は、ほぼ見当たらない。 初年度は、CAGE-seq解析データからリストアップした一次解析候補遺伝子の発現パターン検証を実施し、融合の進展にともなって融合領域特異的な発現上昇および発現下降を示す複数の遺伝子を見出した。特に、融合領域に特異的なEMTコア制御因子の発現上昇は、EMTが漿尿膜融合プロセスに関与している可能性を強く示唆している。これらの結果は、ニワトリ漿尿膜融合の誘導・発生機序におけるEMTの役割を解明するうえで、着実な1歩となった。
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今後の研究の推進方策 |
mRNA in situ ハイブリダイゼーション解析で融合領域特異的な発現変動を示した遺伝子(2次解析候補遺伝子グループ)について、中皮細胞EMTを誘導調節する機能性の検証を始める。検証には、従来の強制発現(Gain-of-function)法や機能阻害(Loss-of-function)法に加えて、CRISPR/dCas9介在性の内在性転写活性操作法も用いる。CRISPR/dCas9介在性の転写活性操作に必要な転写開始点情報(TSS, Transcription Start Site)はCAGE-seq解析により取得している。機能性検証で得られる漿尿膜融合の表現型は、免疫染色などにより解析する。また、現在進行中である1次解析候補遺伝子グループのmRNA in situ hybridization解析もひきつづき継続し、2次候補遺伝子の絞り込みを進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度に予定していた試薬購入を部分的に次年度へ繰り越した。実験計画に変更は生じていないため、引き続き助成金は当初の計画のとおり、免疫染色用試薬や抗体、消耗品およびその他試薬の購入などに充当する。
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