研究課題
中皮細胞の上皮間葉転換(EMT)は、ヒト疾患やその病態の進行、さらには器官形成など、様々な局面で重要な役割をはたしている。胚体外組織である漿尿膜を形成する過程は漿尿膜融合と呼ばれる。漿尿膜融合では、漿膜中皮と尿膜中皮が互いに接触し上皮性を失い、2つの中皮は融合し、漿尿膜中胚葉細胞へと変貌を遂げる。しかしながら、その上皮性喪失に関する詳細な調節メカニズムは不明である。本研究は、ニワトリ漿尿膜融合モデルを用いて、漿膜中皮と尿膜中皮にEMTを誘導する制御因子の探索を目的とする。初年度より、漿尿膜融合関連組織のCAGE-seq解析からリストアップした遺伝子(1次候補遺伝子)について発現パターン解析(mRNA in situ ハイブリダイゼーション解析)を行い、融合領域特異的に発現変動する遺伝子(2次候補遺伝子)の絞り込みを進めてきた。今年度は、遺伝子の絞り込みと並行して、絞り込んだ2次候補遺伝子について中皮細胞にたいするEMT誘導・調節能の検証を開始した。検証にあたり、まず初めに、EMTコア制御転写因子であるSNAI1やZEB2、また中皮腫マーカーとして知られるWT1が特異的に発現する尿膜組織に着目した。誘導調節機能の検証には、CRISPR/dCas9介在性の内在性転写活性調節法(活性化:CRISPRa法、不活性化:CRISPRi法)による遺伝子発現調節実験を実施し、その表現型を解析した。漿膜非存在下で実施した尿膜中皮に対する遺伝子転写活性調節実験から、尿膜中皮WT1の発現抑制は、尿膜中皮細胞の上皮性形態喪失を誘導するとともにアピカル側への遊走性を付与することが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画では、in ovoでの検証を予定していたが、エレクトロポレーションによるプラスミド導入効率の低下が発生し、解消されなかった。プラスミドサイズとin ovoエレクトロポレーション条件の相性の問題が考えられたため、本研究と並行して新しく開発した漿尿膜融合のex ovo再現系に切り替えて検証を進めている。CRISPRi法による尿膜中皮細胞の遺伝子発現調節実験では、漿膜の影響を排除するため尿膜を単離して実験を実施した。尿膜中皮にたいするWT1抑制実験では、尿膜中皮細胞が上皮性を喪失し、遊走能を獲得する表現型を得た。融合にともなうmRNA発現パターンに注目すると、予定融合領域における尿膜中皮のWT1発現レベルは融合の進展とともに下降し、逆にSNAI1は発現上昇を示すことを明らかにしている。また、WT1の発現下降領域はSNAI1の発現上昇領域と重なることも明らかにしている。これらを踏まえて、WT1遺伝子は尿膜中皮のEMT制御に強く関与している可能性が示唆される。2次候補遺伝子の機能検証実験の結果、漿尿膜融合に介在する中皮EMTマスターレギュレーター候補遺伝子の一つとして、WT1遺伝子をリストアップした。
ひきつづき、CRISPRa法およびCRISPRi法による尿膜由来の2次候補遺伝子(SNAI1など)のEMT誘導調節機能の検証実験を着実に進めるとともに、漿膜組織で発現変動を示す2次候補遺伝子の検証実験に着手する。
一部、試薬購入を次年度に繰り越した。実験計画に変更は生じていない。次年度使用額については、当初計画に沿って抗体や試薬の購入等に充当する。
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Haematologica
巻: 105 ページ: 2647~2650
10.3324/haematol.2019.239434
Development
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doi:10.1242/dev.184960