研究課題/領域番号 |
18K06268
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研究機関 | 東洋大学 |
研究代表者 |
小柴 和子 東洋大学, 生命科学部, 教授 (30467005)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ゼブラフィッシュ / 動脈球 / エラスチン / 心筋 / 平滑筋 |
研究実績の概要 |
多くの脊椎動物とは異なり、ゼブラフィッシュなどの真骨魚類は動脈球と呼ばれる平滑筋からなる心臓流出路を有する。これまでの研究から真骨魚類の動脈球の獲得にはトロポエラスチン遺伝子の重複と、エラスチンの新規機能の獲得が重要であることが考えられている。重複したトロポエラスチン遺伝子のうち、トロポエラスチンbは心臓流出路に特異的に発現し、その機能を阻害すると心臓流出路に異所的に心筋が分化してくる。このことから、心臓流出路に存在するエラスチンが心臓前駆細胞の分化運命を心筋から平滑筋へと制御していることが考えられた。ゼブラフィッシュ流出路にはエラスチンの重合に関与するltbpやファイブリン(fibulin)も発現しており、トロポエラスチンだけではなく、流出路にエラスチン合成を促進させるシステムが進化的に獲得されてきたことが予想される。本研究では、動脈球形成に関与する因子を明らかにするために、エラスチン重合に関与するltbpファミリー、ファイブリンファミリー、フィブリリンファミリーに着目し、これらファミリー因子のうち、ゼブラフィッシュの心臓発生において流出路に発現するものを同定し、その発現パターンを詳細に観察した。その中で、トロポエラスチンbと発現時期や発現領域が被るものについて、アンチセンスモルフォリノオリゴを合成し、ゼブラフィッシュの受精卵に顕微注入することによる機能阻害実験を行い、心臓形成、特に流出路形成に与える影響について調べた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ltbp、ファイブリン、フィブリリンファミリー因子のうち、他の脊椎動物において循環器系に発現しているものに着目し、ゼブラフィッシュ遺伝子のクローニングと、in situハイブリダイゼーションによる発現解析を行った。その結果、動脈球形成時に流出路に発現するltbp因子、ファイブリン因子をいくつか見出すことができた。それぞれについて機能阻害実験を行ったところ、心臓流出路を含む心臓発生の異常が認められた。 トロポエラスチンb(elnb)遺伝子と発現の時期および領域が非常に似通っているファイブリン5(fbln5)遺伝子について、上流配列を比較解析したところ、ともにsmad4結合配列を含んでいることが分かった。このことは、両者に共通の転写制御が働いていることを示唆し、動脈球の進化について新規の分子メカニズムを提唱できる可能性がある。 smad4のアンチセンスモルフォリノオリゴによるelnbとfbln5の発現変化を調べ、またルシフェラーゼアッセイによって転写活性を調べることにより、smad4が実際にelnbとfbln5の発現を制御しているのか明らかにしていく。
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今後の研究の推進方策 |
ゼブラフィッシュの心臓発生において、心臓流出路に発現するltbp、ファイブリン、フィブリリンファミリー因子の解析を進める。アンチセンスモルフォリノオリゴによる機能阻害によって心臓発生に異常が生じた胚について、組織解析、心臓マーカー遺伝子の発現解析を行うことにより、異常が生じた原因を明らかにしていく。また、smad4がelnb遺伝子とfbln5遺伝子の心臓流出路における発現を制御している可能性を検証するために、smad4結合配列を含む領域をルシフェラーゼベクターにクローニングし、ルシフェラーゼアッセイを行う。それとともに、smad4のアンチセンスモルフォリノオリゴによる機能阻害実験を行い、elnb、fbln5の発現変化および、エラスチンの蓄積について調べる。さらに、動脈球の平滑筋分化状態を調べることにより、smad4がエラスチン重合に関わる因子を制御し動脈球形成を促進するという仮説を検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究を担当していた学生が一時期体調を壊し、予定していた実験の一部に遅れが生じてしまった。その遅れも現在取り戻しつつあるので、精力的に研究を進めていきたい。
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