研究課題
3カ月令のカエルの心室先端部を切除して心筋再生を誘導し、術後1-7日後の心臓からRNAを抽出して遺伝子発現変化を解析した。その結果、islet-1遺伝子は心筋切除の翌日には有意な発現上昇を示した後、再生5日目までは高い発現量を維持することがわかった。心臓形成に関わる複数の遺伝子について心筋再生過程における遺伝子発現変化を調べた結果、nkx2.5など複数の転写因子が術後1日目に発現の有意な上昇を示すことがわかった。VISTAを用いて魚類から哺乳類の10種間で、islet-1遺伝子の5'上流600Kbにおける保存性の高い領域(MCR)の探索を行った。その結果、islet-1上流7箇所に、高い保存性をもつMCRが存在することがわかった。次にこの7箇所の保存領域について、JASPARとMetascapeを用いて転写調節因子が結合するモチーフ検索を行った。その結果、結合モチーフが繰り返し出現する転写調節候補遺伝子として、nkx2.5など10個の遺伝子を絞り込むことができた。マウスの8週令を用いた心筋再生実験では、心室壁面に凍傷を与えて心筋の創傷治癒を誘導する実験系を確立することができた。創傷誘導後5日までの遺伝子発現変化を解析した結果、マウスにおいても、凍傷を加えてから3日目までに、ツメガエルと共通する遺伝子の発現上昇が検出された。しかしマウスでは、islet-1の遺伝子発現変化は認められなかった。以上の結果から、心筋再生の初期過程では、両生類と哺乳類に共通の遺伝子発現変化が認められるが、islet-1の遺伝子発現には明確な差が見られることがわかった。これらの結果は、心筋再生能とislet-1発現の密接な関連を示唆している。
2: おおむね順調に進展している
カエルの心室切除後1日目にはislet-1の発現上昇が誘導されることがわかり、予想以上に早い反応であることがわかった。多くの遺伝子が心筋再生過程において転写の活性化を示すことがわかったが、islet-1遺伝子のプロモーター領域における保存性の解析と、その保存領域に検出される転写因子の結合モチーフ解析を行うことにより、islet-1遺伝子の転写誘導に密接に関わる遺伝子候補を絞り込むことができた。マウスの心筋再生実験では、心室からの出血を最小限に止める必要があり、両生類や魚類のような心室切除実験は難しい。そこで今回は凍傷により誘導された創傷の治癒過程を心筋再生のモデル実験とした。その結果、再生実験中での死亡を完全に回避することができ、両生類と極めて類似した遺伝子発現変化を検出することができたので、研究は順調に進んでいる。
nkx2.5、mef2c、hif1aなどの転写因子はislet-1と同じく、カエルの心室切除後1日目に遺伝子発現の上昇を示した。そのため、これらの転写因子の発現上昇はislet-1発現の引き金になっているのか、islet-1発現上昇の結果なのかは不明である。しかしislet-1遺伝子のプロモーター領域の保存領域には、これらの転写因子の結合モチーフが複数検出されている。そこで、今後は当初の計画通り、islet-1の転写活性化を誘導する遺伝子候補の一つ一つについて、機能阻害実験、遺伝子破壊実験を行い、islet-1の活性化に及ぼす影響を解析する予定である。また、転写因子の結合モチーフを含むプロモーター領域を単離してレポーター解析を行い、転写活性化の候補遺伝子がislet-1遺伝子の転写誘導に直接作用するのか否かを調べる予定である。
心筋再生過程で発現上昇を示す遺伝子について、遺伝子発現部位を免疫組織化学的に解析するための試薬代を計上していたが、2018年度は候補遺伝子の絞り込みに時間がかかり、実施できなかった。そこで、2019年度は、絞り込んだ候補遺伝子の発現局在を調べるための試薬代として使用する予定である。
すべて 2018 その他
すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件) 備考 (1件)
Sci. Repo.
巻: 8 ページ: 7455-7469
10.1038/s41598-018-25867-x
https://www2.rikkyo.ac.jp/web/tkinoshita/