研究課題/領域番号 |
18K06274
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研究機関 | 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
黒羽 剛 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 生物機能利用研究部門, 研究員 (50415155)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | イネ / 洪水 / 節間伸長 / 植物ホルモン / ジベレリン / エチレン / ストレス |
研究実績の概要 |
植物は、様々な外部環境に対応した多様な環境応答機構を持っている。通常の栽培イネは、日長や温度等に起因する生殖成長の開始に伴い、急激に節間を伸長させる能力を持つ。その一方で、浮イネと呼ばれるイネは、長期的な洪水による水没に応答して急激に節間を伸長させる。これらの節間伸長に共通して貢献する因子として、先行研究においてジベレリン合成酵素遺伝子SD1 (OsGA20ox2 )を同定している。浮イネでは水没で生じるエチレン蓄積により、エチレン情報伝達因子OsEIL1aが安定化することでSD1遺伝子のプロモーターに結合し、遺伝子発現が誘導されることが予想されている。本研究では、様々な環境に応答した節間伸長の制御に重要と考えられるSD1遺伝子について、その詳細な転写制御機構の解明を試みている。 令和元年度は以下の研究を行った。 (1)浮きイネ特異的なSD1プロモータ領域の塩基配列が水没に応答した遺伝子発現の制御に関わる可能性を検証するために、様々な組み合わせの浮きイネ特異的な塩基を持つイネ系統の作成し、その純化を行った。(2)浮きイネ由来のSD1遺伝子を背景に持つイネ系統を用いて、エチレンよるSD1遺伝子発現の誘導に関わると予想される20bpの配列を改変したゲノム編集系統を確立することに成功した。(3)OsEIL1a遺伝子機能が欠損したゲノム編集系統の作出のためのベクターを構築し、(2)と同じイネ系統に導入し再分化個体を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
浮きイネに特異的な水没に応答してSD1遺伝子発現の誘導には、SD1遺伝子のプロモーター領域とイントロン領域に存在する、浮きイネ特異的な17個の多型が必要であることが明らかになっている。先行研究から、17個の多型が未知の転写制御因子との結合に影響を与えると予想されている。浮イネ特異的な多型をプロモーター領域のみ(10個)に持つ系統と、プロモーター領域の5個およびイントロン領域7個を持つ系統の取得と純化を行った。これらの系統について深水処理を行い、SD1遺伝子の誘導性を調査した。 先行研究により、SD1遺伝子プロモーター上の20bpの配列が、OsEIL1aによる転写活性化に必須であることが明らかになっている。この領域が植物体でのエチレンに応答したSD1遺伝子発現に必要であることを実証するため、CRISPR/Cas9システムにより転写活性化領域を改変した形質転換体の作成を行った。その一方、OsEIL1aがSD1遺伝子発現の誘導に必須であることを検証するため、OsEIL1aの機能が欠損した系統をゲノム編集により作成した。
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今後の研究の推進方策 |
前年度において作成した、異なる組み合わせの浮きイネ特異的多型を持つ系統を用いて、水没による発現誘導性の比較を行う。SD1遺伝子発現制御に関わる変異を絞り込むことができた場合、その変異を含む領域に結合するタンパク質を探索するために、転写因子cDNAライブラリーを用いた酵母one-hybrid screeningを試みる。浮きイネ特異的多型がエピジェネティックな制御に関与する可能性もあるため、その関与の検証を試みる。 ゲノム編集によりSD1遺伝子プロモーター上のOsEIL1a結合部位を改変した系統や、OsEIL1a遺伝子産物の機能が欠損系統における遺伝子型を確認後、深水によるSD1遺伝子発現誘導への影響を調査する。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和元年度ではゲノム編集系統の作成に注力し、酵母one-hybrid screeningによるSD1プロモーター結合のスクリーニングは令和2年度に行うこととしたため、213,698円を次年度使用額とした。 本研究課題の推進のため、令和2年度の研究費は、交付申請時の計画どおり物品費・旅費・その他に使用する。次年度使用額213,698円は、遺伝子発現解析、酵母ワンハイブリッド法での新規結合因子の探索に充てるものとし、次年度に請求する研究費と合わせて研究計画遂行のために使用する。
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