植物は、様々な外部環境に適応するために多様な環境応答制御機構を持っている。通常の栽培イネは、日長や温度等に起因する生殖成長の開始に伴い、急激に節間を伸長させる。一方で、浮イネと呼ばれる洪水地帯に生息するイネは、長期的な洪水による水没に応答して急激に節間を伸長させる。これらの節間伸長に共通して貢献する因子として、先行研究においてジベレリン合成酵素遺伝子SD1 (OsGA20ox2 )が同定されている。浮イネでは水没で生じるエチレン蓄積により、エチレン情報伝達因子OsEIL1aが安定化することでSD1遺伝子のプロモーターに結合し、遺伝子発現が誘導されると考えられている。本研究では、節間伸長の制御に重要なSD1遺伝子について、ゲノム編集によりその転写制御機構の検証および解明を試みた。 令和2年度は以下の研究を行った。 (1)浮きイネの水没に応答したSD1遺伝子発現の誘導に必要と考えられる多型をターゲットとしてゲノム編集により変異を誘導した。(2)浮きイネ由来のSD1遺伝子を背景に持つイネ系統を用いて、OsEIL1aによるSD1遺伝子発現の誘導に関わると予想される20bpの配列を改変したゲノム編集系統を確立するとともに、その周辺の大小様々な欠失が生じたゲノム編集系統を作出した。(3)(2)と同じ遺伝的背景を持つ系統において、OsEIL1a遺伝子機能の欠損を引き起こすゲノム編集系統の作出に成功した。
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