研究課題/領域番号 |
18K06279
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
小関 良宏 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (50185592)
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研究分担者 |
廣瀬 由紀夫 愛媛県農林水産研究所, 企画環境部・農業研究部, 主任研究員 (40504147)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | アントシアニン / アシルグルコース依存糖転移酵素 / デルフィニウム / ニンジン |
研究実績の概要 |
デルフィニウムにおける花色発色はアントシアニンによるものであり、そのアグリコンとしてその B 環の 3’、4’、5’ 位に水酸基を有するデルフィニジンにより青色花となっている。しかしアグリコンのままでは疎水性であるために、3 位にグルコースの先にラムノース、7 位にグルコースと p-ヒドロキシ安息香酸が複数結合している。これまでにこれらによる修飾過程を明らかにしてきたが、一方で淡ピンク色の品種が確立されており、そこにおいてはアグリコンが B 環の水酸基の 4’ 位のみに 1 つ有するペラルゴジンであり、flavonoid 3’ hydroxylase (F3’H) の発現が欠失していることを明らかにした。しかし、これまで B 環の 3’ と 4’ 位に水酸基を有するシアニジンをアグリコンとするアントシアニンを合成蓄積している個体は知られていない。そこで本年度の研究においては、シアニジンを合成・蓄積するデルフィニウムを作出することを目指した。野生種の中でクリーム色花をもつ Delphnium zalil において F3’H 遺伝子が発現して機能していることを見出し、この遺伝子をクローニングした。これに交配可能な野生種として F3’5’H を欠失し赤橙色の花を有する D. cardinale と交配させたところ、雑種第一代において真紅色の花を咲かせることに成功した。その雑種の花から色素を抽出して解析したところ、シアニジン誘導体が合成されていること、また F3’H 遺伝子が発現していることが示された。このことから表現型の上でクリーム色花を呈している D. zalil が有している F3’H は赤橙色花に交配することによって、アントシアニンの水酸化に機能することが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
野生種の中でクリーム色花をもつ Delphnium zalil においてフラボノールが蓄積されており、その分子種は B 環に水酸基を 1 つもつケンフェロールとともに 2 つもつクエルセチンが合成蓄積されていることを明らかにした。このことから D. zalil は flavonoid 3’ hydroxylase (F3’H) が機能していると考えられた。そこで、その萼片から F3’H 遺伝子をクローニングし、その塩基配列を決定した。さらに Z.zalil においては anthocyanidin synthase (ANS) の発現が抑制されてアントシアニン合成が起こらないことがわかった。そこで、D. zalil と F3’5’H を含まず ANS の発現が起こりアントシアニンを合成する赤橙色花との交配をさせて D zalil の F3’H 遺伝子を赤橙色花に導入するため、D. zalil と赤橙色花の D. cardinale を交配させて雑種を作成したところ、雑種第一代において真紅色の花を咲かせることに成功した。その雑種の花から色素を抽出して加水分解して解析したところ、シアニジンが合成されていることが明らかになった。しかし、加水分解せずにそのまま HPLC により解析したところ、その雑種個体によって溶出パターンが異なるものが見られ、アグリコンとしてはシアニジンであるが、そのグルコースと p-ヒドロキシ安息香酸による修飾プロファイルが異なる個体が存在することが明らかになった。またその雑種第一代の花の萼片から RNA を得て調べたところ、F3’H 遺伝子が発現していることが示された。このことから表現型の上でクリーム色花を呈している D. zalil が有している F3’H は赤橙色花に交配することによって、その F3’H はアントシアニンの水酸化に機能することが示された。
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今後の研究の推進方策 |
本研究において、これまでにデルフィニウム属植物においては合成されていなかったシアニジンを合成するために必要な F3’H 遺伝子をクリーム色の花色を呈する D. zalil から赤橙色の別の野生種に交配して遺伝子を導入することによって合成・蓄積させることに成功した。一方でデルフィニウムにおけるこのクリーム色がどうして発色するのかは未だ解明されていない。デルフィニウムにおいてクリーム・白色花は野生種だけでなく商用品種においても存在し、これらには 2 種類の無色化要因があることを当研究者は今回の研究の過程において見出した。D. zalil においてはアントシアニンの合成が起こらずフラボノールの蓄積によるクリーム色が見られる一方で、デルフィニウム商用品種であるアリエルホワイトにおいては、花色は白色であるが、これを酸性メタノール溶液で抽出すると赤色を呈し、アントシアニンが合成されていることを見出した。この品種においては F3’5’H 遺伝子が発現しており、アグリコンはデルフィニジンであり、またその修飾は 3 位にグルコースが結合してその先にラムノースが結合しており、7 位にグルコースが結合し、その先のグルコースと p-ヒドロキシ安息香酸による修飾はなされていない。アントシアニンとしてはこの構造は糖が付加された状態であるので安定であり、液胞の弱酸性水溶液中においては安定に赤紫色を発色するはずであるのに、白色花となっている。このことから、何らかしらの発色減退化合物が液胞中に共存している可能性があり、それによって花色発色が制御されていると考えられ、今後、このアントシアニン発色減退化合物を明らかにしていく必要がある。
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