小胞体からゴルジ体へのタンパク質の輸送はCOPII小胞によって行われる。小胞体の膜上で機能してこのCOPII小胞の形成を制御する因子が多数知られており、その一つがSAR1である。SAR1は低分子量Gタンパク質の一種であり、GTPを結合すると活性化され、そのGTPが加水分解されてGDPになると不活性化される。我々は、花粉エキシンの網の目が大きくなる突然変異体kaonashi21(kns21)の原因遺伝子がシロイヌナズナのゲノムに5個存在するSAR1遺伝子の一つであることをこれまでの研究で明らかにしており、本年度は取りまとめに向けた実験を行なった。プロモーター領域を含むKNS21遺伝子にGFPを連結して融合遺伝子としたものをkns21で発現させると花粉の表現型が正常に戻ったことから、この融合遺伝子は機能的であることが示された。そこで、GFPの蛍光を指標に、KNS21遺伝子がいつどこで発現し、タンパク質がどこに存在しているのかを詳細に解析した。その結果、KNS21遺伝子はエキシンの形成が始まる時期を中心に、葯で強く発現することがわかった。葯以外の器官・組織でも発現が観察された。特に、比較的細胞が大きくて透明であるため内部の観察がしやすい根の皮層細胞では、細胞内の顆粒状の構造物に局在する様子が観察できた。ここにはRFPで標識したAtSEC24Aタンパク質も共局在したことから、この顆粒はCOPII小胞の形成部位であるER exit siteであると考えられる。kns21変異体ではエキシンの網目構造を作るキシラン塊が融合して大型化してしまうことが大きな網目ができる原因であることがわかっている。KNS21はキシラン塊の大きさを制限する因子を花粉表面に供給し、一定の網目サイズを持つエキシンの形成に寄与しているというのが今年度の研究の結論である。
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