小胞輸送に代表される「膜交通」は、小胞体やゴルジ体、液胞など内膜系オルガネラ間のタンパク質の輸送システムを支える基本的な仕組みである。植物細胞における膜交通の分子基盤は他の真核物と大きくは変わらないが、植物固有の発生や生理に応じて植物独自のシステムを発展させている。本研究は申請者らが単離解析してきた液胞輸送変異体kam2がショ糖要求性という想定外の表現型を示すことに端を発している。発芽時のショ糖合成にはオイルボディ、ペルオキシソーム、ミトコンドリアが関与することが知られている。しかし、これまで膜交通とショ糖合成の間には密接な関係は想定されていない。膜交通変異体がショ糖要求性を示すことに着目し、膜交通因子がどのようにショ糖代謝に機能しているのかを明らかにし、植物細胞の「膜交通」の新たな役割を解明する。 kam2変異体のショ糖要求性の割合は、発芽時の光強度や固形培地の硬さに応じて変化した。生育阻害を起こしたkam2変異体をショ糖含有培地に移植すると成長が再開することから、kam2変異体は枯死しているのではなく一時的に生育停止していることが判明した。生育停止したkam2変異体はいわゆるガラス化しており、育停止を引き起こす要因として植物体に過剰な水分が蓄積することが想定される。ガラス化の主な原因は培地と植物体との接触であることが示唆された。生育条件によっては野生型植物でも生育停止が引き起こされるが判明し、kam2変異体は野生型植物よりもガラス化しやすく生育停止に陥る傾向があることが判明した。さらにkam2変異体以外の膜交通変異体でも同様の観察結果が得られた。上記の実験結果を踏まえ、kam2変異体におけるショ糖要求性の原因および環境応答の仕組みについて、原著論文を発表予定である。
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