ゲノムを正確に次世代に伝えることは、生物にとって最も重要な課題の1つであるにも関わらず、植物はその進化の過程で何度もゲノムを倍加させてきた。研究代表者は、これまでの研究により、この植物ゲノムの可塑性が紡錘体形成チェックポイント(SAC)の特殊な制御機構によって生み出されることを示した。本研究では、この植物特異的なSAC制御機構の更なる解析を進めた。 1. 動物細胞では、SACの抑制制御に関わることが知られているp31の植物ホモログをシロイヌナズナで発見し、その機能を調べた。すると、植物のp31はSACの活性制御には関与せず、減数分裂におけるゲノムの維持に関わることを突き止めた。 2. 昨年度までに、SACの制御に関わることが示唆されるChromosomal Passenger Complex (CPC)の構成因子であるBorealin(BORR)の植物ホモログを発見し、その発現抑制体を作製した。このBORR発現抑制体では、染色体分離の異常や、CPC複合体の触媒ユニットであるAUR3の局在変化が観察された。そこで本年度は、BORR発現抑制体をさらに詳しく解析したところ、細胞が2つに分裂する際に染色体が分裂面に取り残され、ゲノムが不安定化していることが分かった。この現象は、AUR3のキネトコアへの局在量が約50%に低下したことにより、キネトコアと紡錘体微小管の結合を監視するCPCの働きが低下したことが原因だと考えられる。この結果は、植物のCPC複合体がゲノムの維持に重要な働きを持つことを意味する。また、更なるCPC複合体の制御機構を調べるために、BORR結合タンパク質の同定を進めたところ、機能未知の構造タンパク質が見つかった。このタンパク質はCPC複合体の局在制御に関わることが示唆され、植物におけるCPCの機能解析に繋がることが期待できる。
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