本研究では、光化学系Iの光阻害について注目し、その損傷メカニズムと光化学系Iのタンパク質品質管理機構について解明を目指して研究を進めた。光化学系Iの損傷は、低温下で起きることが報告されていたが、近年では変動光下で起きることが報告されており、変動する光環境下での現象であることが示唆されてきている。光化学系I損傷メカニズムでは、鉄-硫黄クラスターが光損傷の初発標的部位であることが示唆されており、その周辺タンパク質に何らかの損傷が起きていることが想定された。本研究においては、昨年度までに光化学系タンパク質に起きる損傷についてLC-MS/MSで解析できることを確認した。本年度においては、クラミドモナスを用いて光化学系Iタンパク質複合体の周辺において生じるアミノ酸残基の酸化修飾をさらに解析した。解析の結果、光化学系Iの反応中心タンパク質、鉄イオンクラスターを形成する複数のタンパク質において20箇所以上の酸化修飾を受けたメチオニンならびにトリプトファンを同定することが出来た。同時に進めている光化学系II複合体タンパク質のアミノ酸酸化においては、タンパク質品質管理において重要なD1タンパク質の特定部位に起きるトリプトファンの酸化が光損傷後におきる選択的タンパク質分解に重要であることが明らかになりつつあり、同様に光化学系Iタンパク質におきる酸化修飾は特定タンパク質の選択的分解、さらにはタンパク質品質管理の要点となると考えられた。実際に酸化修飾が見られたタンパク質に注目し、タンパク質分解速度を解析した結果、光化学系Iが損傷を受けやすい条件や変異体において顕著に減少していた。以上の結果から、光化学系Iにおいても酸化を受けやすい特定アミノ酸が存在し、これがタンパク質品質管理の鍵となる可能性が示された。
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