研究課題/領域番号 |
18K06294
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
楠見 健介 九州大学, 理学研究院, 講師 (00304725)
|
研究分担者 |
祢宜 淳太郎 九州大学, 理学研究院, 准教授 (70529099)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | イネ / CO2 / 気孔 / ゲノム編集 / 蒸散 |
研究実績の概要 |
本課題では、植物が、環境の変化に応じて、気孔を介したCO2吸収と水蒸散のバランスをどのように調節し最適化しているのかを調べ、気孔制御の改変が環境適応能力の強化につながるかを検証する。そのために気孔閉鎖制御のキー因子である陰イオンチャネルタンパク質SLAC1を分子ツールとして、ジーンターゲティングの手法により、イネSLAC1のCO2シグナル受信部位を改変したゲノム編集株を作製し形質の評価を行う。 本年度は、昨年度に引き続き、作成したジーンターゲティング用のプラスミドベクター(GTベクター)の、イネへの導入を進めた。SLAC1遺伝子のCO2シグナル受信部位(Y256、Y473)を改変したGTベクターをアグロバクテリウムを介して、イネ台中65号に加えて日本晴の二次カルスにも導入した。その後薬剤耐性を利用して改変SLAC1が組み込まれたカルスを選抜し、その中から組み替えを起こしたカルス(GTカルス)をPCRにより選抜した。その結果、日本晴において、Y256、Y473の両部位に変異が入った系統(slac1Y256F_Y473F)が1つ、Y473系統のみに変異が入った系統(slac1Y473F)が2つ得られた。これらにさらにトランスポゾン遺伝子hyPBaseを導入し、その結果slac1Y473Fについて、hyPBaseにより、薬剤耐性マーカーの除去に成功した。これらはそのまま再分化させ、T1種子を得た。並行して、CRISPR/Cas9のシステムによりSLAC1破壊系統の作成を行った。SLAC1遺伝子上から3箇所のPAM配列を選抜し、それぞれに対応するguide RNA配列を組み込んだCRISPR/Cas9プラスミドをイネカルスに導入し、導入カルスを再分化させた。その結果、SLAC1にフレームシフトを引き起こした再分化系統が台中65号で4系統、日本晴で1系統得られた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、本研究計画の目的の一つで、主材料である、SLAC1遺伝子のCO2シグナル受信部位を改変したイネについては、当初の目的であるジーンターゲティング(GT)の手法により作成することができた。昨年度問題となっていたGTカルスの出現頻度が非常に低い問題については改善されなかったが、改変部位をCO2シグナル受信部位(Y256、Y473)に絞ることと、イネにおけるGTの実績がある日本晴系統を用いることにより、GTカルスを得ることができた。一方、Y256、Y473の両部位に変異が入った系統(slac1Y256F_Y473F)に加えて、副次的にY473系統のみに変異が入った系統(slac1Y473F)を得ることができた。CO2シグナルの受信強度は、受信箇所の数に応じて相加的に増加する可能性があるが、両系統を比較することでその検証が可能である。一方対照系統として作成を計画していたSLAC1破壊系統(G207D)はGTで作成することを断念し、CRISPR/Cas9のシステムを用いたゲノム編集で対応した。現在、両系統ともにT1種子を得ており、対象系統は確保できたと考えている。本年度前半は、コロナ禍により形質転換体の作成を止めざるをえなかったため、計画の延長を申請し承認された。令和3年度は上記の系統の確立と形質の検証を行う。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度得られたSLAC1遺伝子上の2箇所のCO2受信部位(Y256、Y473)両方に変異が入った系統(slac1Y256F_Y473F)、Y473系統のみに変異が入った系統(slac1Y473F)、ゲノム編集によるSLAC1破壊株について、系統の確立と、形質評価を行う。系統の確立については、選抜マーカーの除去(GT系統のみ)を進め変異部位のホモ化を確認する。確立した系統からガス交換測定装置を用いて気孔応答を調べ、九州大学環境シミュレータ内で形質評価を行う。すでに昨年度、同施設内でCO2応答の差を最も顕著に検出できる条件を調べているため、その結果に基づいて系統間で成長と収量を比較する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
昨年度の時点で、変異部位のホモ化を確認し確立したイネ系統から、ガス交換測定装置を用いて気孔応答を調べ、九州大学環境シミュレータ内で形質評価を行う予定だった。しかし本年度前半は、コロナ禍により形質転換体の作成を止めざるをえなかったため、計画の延長を余儀なくされた(計画延長を申請し承認された)。次年度使用額は令和3年度に行う、上記の形質評価実験に用いる。
|