研究課題/領域番号 |
18K06295
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研究機関 | 神奈川大学 |
研究代表者 |
永島 賢治 神奈川大学, 付置研究所, 研究員 (80264589)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 光合成電子伝達 / 紅色光合成細菌 / シトクロム / 遺伝子操作 |
研究実績の概要 |
シトクロムbc1複合体は、キノールの酸化および水溶性電子伝達タンパクの還元を行うとともに、これらと共役してプロトンの輸送を行う細胞膜結合タンパク質複合体であり、光合成や酸素呼吸の電子伝達鎖において必要不可欠な成分であると考えられている。本研究ではこのシトクロムbc1を機能相補する新規キノール酸化/水溶性チトクロム還元酵素を探索し、その生理・生化学的機能を明らかにすることを目的としている。紅色光合成細菌Rubrivivax gelatinosusにおいて類似の機能を果たすと推定された膜貫通タンパク質複合体にET1と仮称を付して精製しゲル電気泳動解析したところ、約24 kDaのc型シトクロムと38 kDaおよび42 kDaの膜貫通タンパク質の3つが検出された。c型シトクロムについて酸化還元滴定を行うと、中点電位が+194 mVおよび+358 mVで、α-吸収ピークが555 nmであることが確認された。このET1複合体とシトクロムbc1複合体の2重欠損株は光合成による生育が一旦は不可能であったが、継代培養により光合成生育が回復したサプレッサー変異株が見いだされ、第3のキノール酸化/水溶性チトクロム還元酵素の存在が予見された。このサプレッサー変異株には約20 kDaの水溶性c型シトクロムの蓄積が見られたので、これを精製しN末端部位のアミノ酸配列を決定したところ、硝酸呼吸に働くnosC遺伝子産物として同定された。このサプレッサー変異株を親株としてnosCの欠損株を作成したところ、光合成による生育能は完全に失われた。nosC遺伝子産物は水溶性のc型シトクロムなので、その働きは光化学反応中心への直接の電子供与体であると推測される。現在、このnosC遺伝子産物への電子供与体となる膜タンパク質複合体を全ゲノム情報から推測し、欠損株の作成を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
紅色光合成細菌 Rubrivivax gelatinosus からの新規キノール酸化/水溶性シトクロム還元酵素複合体(ET1)の精製は、イオン交換カラムクロマトグラフィー等を適用した従前の方法でほぼ達成したと思われる。しかしこの複合体を構成する3つのサブユニットタンパク質はいずれもN末端が修飾されているため同定が困難であり、2021年度になってマススペクトル解析によりようやく同定に至ったものの、かなりの時間が消費された。シトクロムbc1複合体とET1の2重欠損株のサプレッサー変異株において新たに推定された第3のキノール酸化/水溶性チトクロム還元酵素についても、ET1と同様に精製・同定を試み、c型シトクロムを含む候補タンパク質が得られた。膜標品を用いた時間分解分光測定では光照射による酸化還元反応も確認された。このように、新規タンパク質の関与を見出すなど、当初は予想していなかった発見があったため、欠損株の作成など新たな実験項目が必要となった。
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今後の研究の推進方策 |
基本的に当初の計画に従って研究を進める。高収率・高純度に得られるようになった新規シトクロム等について、主に分光測定により詳細な機能解明を進める。生化学的な同定作業を引き続き検討しつつゲノム解析データを精査し、候補タンパク遺伝子を網羅的に欠落させて機能変化を観察することで生理機能を明らかにしていく。具体的には硝酸呼吸に働く膜結合タンパク質(nir、nor、nosなど)の遺伝子やDMSO還元酵素遺伝子(dmsABC)などについて、欠損株の作成と光合成培養実験を進める。これらの膜結合型電子伝達タンパクから光化学反応中心への電子についても、精製光合成膜標品との再構成実験や欠損変異株の作成を通じてさらに明確にする。また、光化学反応中心からキノール酸化/水溶性シトクロム還元酵素に至るキノールの輸送過程で働く新規タンパク質の生化学的性質や、詳細な反応機構も可能な限り追求する。以上の研究項目の推進により、紅色光合成細菌における光合成電子伝達ネットワークの全貌解明を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定した実験の内容を一部変更・追加し遅延が生じたこと、および新型コロナウイルス蔓延と関連してディスポーザルのバイアル瓶やピペットチップなど基礎的な実験消耗品の納入が大幅に遅延またはキャンセルされたことにより遅延が生じ、繰り越しが発生した。当初は2020年度が最終年度であった本研究をさらに延長し、生じた次年度繰越分を、必要な消耗品の購入や論文の校閲・投稿用に充当して研究計画を完了させる予定である。
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