研究課題/領域番号 |
18K06297
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研究機関 | 中部大学 |
研究代表者 |
町田 千代子 中部大学, 応用生物学部, 特任教授 (70314060)
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研究分担者 |
高橋 広夫 金沢大学, 薬学系, 准教授 (30454367)
町田 泰則 名古屋大学, 理学研究科, 名誉教授 (80175596)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | シロイヌナズナ / 葉の発生分化 / エピジェネティック制御 / DNAメチル化 / 核小体 |
研究実績の概要 |
多細胞生物の形態形成においては、発生過程において特定の遺伝子を発現すると同時に、細胞特異的なエピジェネティックな抑制が重要である。我々は、シロイヌナズナのASYMMETRIC LEAVES1 (AS1)とAS2のタンパク質複合体(AS1-AS2)が葉の向軸側分化の鍵因子であり、向軸側細胞分化過程では、背軸側遺伝子であるETT/ARF3の転写を直接抑制することにより表側分化を誘導する事を明らかにした。また、AS2と核小体局在タンパク質が、ETT/ARF3遺伝子のDNAメチル化維持に関わる事、AS1-AS2と核小体タンパク質が協調的に作用することにより、より強く背軸側遺伝子を抑制することを明らかにしたが、その分子機構は未解明であった。また、植物の発生分化における核小体の役割についてはほとんどわかっていない。そこで、我々は、第一に、核小体局在タンパク質をコードする遺伝子(NUCLEOLIN1, RNA HELICASE10)の変異体背景でAS2 bodyを観察したところ、AS2 bodyが核小体内部に小さく散らばったような局在を示す事が明らかになった。これらの変異体においては、核小体機能の低下と構造の脆弱性が報告されており、葉の発生分化における核小体の構造的機能的重要性を示唆した(Luo et al., 2020)。第二に、不活化した45S rDNAを含む核小体周縁部のクロモセンターとAS2 bodyが共局在していることを明らかにした(Luo et al., 2020)。これらの結果は、核小体周辺領域に存在するAS2 bodyは、AS1-AS2と核小体因子等による標的遺伝子のDNAメチル化などのエピジェネティックな発現抑制の場であるというモデルを支持する結果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
これまで得られた結果は、核小体周辺領域に存在するAS2 bodyが、AS1-AS2と核小体因子等による標的遺伝子のDNAメチル化などのエピジェネティックな発現抑制の場であるというモデルを支持している。また、核小体の発生分化における役割を明らかにできると期待される。第一に、AS2 body形成に必要なAS2のドメイン領域とアミノ酸配列について明らかにした。さらに、不活化した45S rDNAを含むと考えられる核小体周縁部のクロモセンターとAS2 bodyが共局在していることを明らかにした(Luo et al., Plant J. 2020)。この論文においてAS2とクロモセンターの共局在を示した顕微鏡像がPlant Journal誌3月号の表紙に採用された。第二に、我々は、新しいターゲットバイサルファイトNGS法(SIMON法)を開発し、ゲノム上の特定の領域のDNAメチル化レベルを迅速に、かつ安価に、しかも正確に解析する方法を開発し(Vial-Pradel et al., Plant Biotech.,2019)、現在、様々な変異体における、特定の遺伝子領域のDNAメチル化を容易に解析できるようになった。これらの結果が得られ、総合的には、当初の計画以上の進展であった。
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今後の研究の推進方策 |
現在までの解析結果から,我々は、AS1-AS2 には標的遺伝子(ETT/ARF3など)に結合し、核小体周辺領域にリクルートする機能があり、核小体周辺領域に存在するAS2 bodyは、AS1-AS2と核小体因子等による標的遺伝子のDNAメチル化などのエピジェネティックな発現抑制の場であるというモデルを提案している。第一に、新しいターゲットバイサルファイトNGS法SIMON法を用いて、AS2のターゲットのDNAメチル化維持に必要なAS2のAS2ドメイン領域、及び、AS2のC末端側のアミノ酸配列を明らかにする。第二に、AS2 body形成に必要なAS2ドメイン領域、及び、AS2のC末端側のアミノ酸配列を明らかにする。第三に、AS2と結合するゲノム上のDNA領域を明らかにする。特に、2018、2019年度に明らかにした、AS2のGCGリピート配列に対する結合特異性を明らかにする。現在までに、我々は、AS2が、ETT/ARF3以外の他のARF遺伝子にも結合する可能性を示している。さらに、AS2が結合する可能性がある45S rDNA,及び、他のゲノム上の標的配列を同定し、AS2によるエピジェネティックな制御機構を明らかにする事により、植物のような動く事のできない生物の発生分化過程における、核小体の役割を明らかにできると期待される。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由:新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、参加を予定していた学会が延期になり、旅費を繰り越す事になったため。また、2019年度の実験が効率よく進んだ結果、消耗品の支出が予定より少額となったため。 使用計画:出張可能となった場合には、学会参加と共同研究打ち合わせのために使用する。実験が効率よく進んだため、論文投稿の準備をしており、英文校閲のための謝金として使用する予定である。
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