研究実績の概要 |
多細胞生物の形態形成においては、発生過程において特定の遺伝子を発現すると同時に、細胞特異的なエピジェネティックな抑制が重要である。我々は、シロイヌナズナのASYMMETRIC LEAVES1 (AS1)とAS2のタンパク質複合体が葉の向軸側分化の鍵因子であり、向軸側細胞分化過程では、背軸側遺伝子であるETT/ARF3の転写を直接抑制することにより表側分化を誘導する事を明らかにした。またAS2と核小体局在タンパク質が、ETT/ARF3遺伝子のDNAメチル化維持に関わる事、AS1-AS2と核小体タンパク質が協調的に作用することにより、より強く背軸側遺伝子を抑制することを明らかにしたが、その分子機構は未解明であった。また植物の発生分化における核小体の役割についてはほとんどわかっていない。そこで我々は第一に、核小体局在タンパク質 NUCLEOLIN1 (NUC1), RNAHELICASE10 (RH10)に加えて、HDA6遺伝子の変異体背景で、AS2 bodyの形状を解析した所、野生型と大きく変わらなかった。HDA6は核質に局在する事、HDA6遺伝子の変異体はas2変異体の向背軸形成不全の表現型を亢進しない事がわかっている。第二に、先進ゲノム支援の協力を得て、我々が開発したSIMON法(targeted BS-seq)(Vila-Pradel., 2019)を用いて、種々の変異体におけるDNAメチル化解析を行った。その結果、核小体に局在しないタンパク質をコードする遺伝子の変異体、hda6、eal等ではETT/ARF3遺伝子のDNAメチル化レベルにはほとんど変化がなかった。これまでの結果と合わせると、AS2 bodyは、核小体周縁部に局在してDNAメチル化等の場となっており、核小体は、その周縁部にエピジェネティックな発現抑制を維持する場を提供しているというモデルを支持する。
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