研究課題/領域番号 |
18K06298
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
笠原 賢洋 立命館大学, 生命科学部, 教授 (70361748)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 植物cAMPシグナル伝達機構 |
研究実績の概要 |
さまざまな生物のシグナル伝達機構において、サイクリックAMP(cAMP)がセカンドメッセンジャーとして機能しているが、植物ではcAMPの生理機能は明確に示されていない。最近、私たちの研究グループは、新奇のcAMP合成酵素(CAPE)をゼニゴケから発見し、CAPEはゼニゴケのみならず、精子を用いて有性生殖を行う緑色植物に保存されていること、CAPE遺伝子がゼニゴケ造精器で特異的に発現していることを明らかにした。これらの結果から、CAPEを中心とするcAMPシグナル伝達機構が、精子機能の調節に働いていることが予想される。本研究では、ゼニゴケのCAPE遺伝子破壊株を用いて精子形成と精子運動能を中心に解析し、cAMPの生理機能を明らかにすることを目的としている。 本年度は、ゼニゴケCAPE遺伝子破壊株の表現型を中心に解析した。無性芽や葉状体の成長と形態、雄器托、雌器托の発生タイミングや形態には異常が見つからなかった。CAPE遺伝子破壊株の雄器托に水滴を与え、精子を放出させたところ、精子が凝集して塊になることや、細胞壁の殻の中に留まる精子が多く観察された。光学顕微鏡による観察では、核を含む頭部と二本の鞭毛を確認でき、精子形態に大きな異常は見つからなかった。しかし、野生株の精子が直線的に水中を泳ぐのに対し、CAPE遺伝子破壊株では直線的な移動がなかった。cAMPが遊泳に必要な鞭毛運動調節に関わることが示唆された。さらにヒメツリガネゴケを材料にCAPE遺伝子の解析を開始した。ヒメツリガネゴケのゲノムにCAPE遺伝子が1コピー存在し、相同組換え法によりCAPE遺伝子破壊株を作製した。ヒメツリガネゴケにおいても表現型の解析が可能になった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、ゼニゴケCAPE遺伝子破壊株を解析し、表現型を見つけることが一番の課題であり、その目標は概ね達成することができた。また、ヒメツリガネゴケでも解析を開始し、ヒメツリガネゴケCAPE遺伝子破壊株を構築することができた。植物におけるcAMPシグナル伝達機構の生理的役割の解明に向けた重要な発見と、植物種縦断的に解析する基盤を構築できたため、概ね順調であると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
ゼニゴケCAPE遺伝子破壊株に、CAPE遺伝子を戻して表現型が回復することを確認する。CAPE遺伝子にはcitrine遺伝子を融合し、CAPEの細胞内局在を同時に調べる。造精器、精子における細胞内局在を観察し、特に精子においては、頭部、鞭毛など、どの部分に局在するかを詳細に観察する。精子運動と関連づけてcAMPシグナル伝達機構の働きを予測し、その後の解析方針を考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
構築したゼニゴケCAPE遺伝子破壊株等の植物体のcAMP量を測定することを予定し、cAMP量測定キットの購入費を当初計上していた。本研究において非常に重要なデータとなるため必須な解析であるが試薬費が高額である。そのため、CAPE遺伝子破壊株へCAPE遺伝子を入れ戻した相補株が完成した時点で集中的にcAMP量を測定することで、試薬費を節約することを計画し、今年度のcAMP量測定キットの購入を控えた。また、CAPE遺伝子破壊株の解析が順調に進んだため、当初予定していたよりも分子生物学研究関連試薬を購入せずに済んだことも理由である。次年度は、今年度に計画していた分と合わせてcAMP量の解析等に使用し、研究をさらに進展させる。
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