研究課題/領域番号 |
18K06299
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
武田 直也 関西学院大学, 理工学部, 准教授 (60571081)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 根粒共生 / 植物微生物間相互作用 / カルシウムシグナリング |
研究実績の概要 |
植物は根粒菌との根粒共生のように、共生により効率的に養分を得ることができ、生育・環境適応に大きな恩恵を受けている。この共生の成立過程では、双方の共生体において共生シグナル分子を介した相互認識が行われる。根粒共生などにみられる共生応答反応「カルシウム振動」は、宿主細胞内のCa2+濃度が周期的な変動を示す現象であり、その特徴的な振動パターンが共生シグナル情報をコードすると考えられている。本研究ではバイオイメージングとトランスクリプトーム解析により、カルシウム振動制御下にあると推定される共生遺伝子を同定し、その機能からセカンドメッセンジャーとして幅広い役割を持つCa2+が、振動現象によってコードした共生シグナル情報を解読することを目的としている。 カルシウム振動は特に表皮に顕著な変動が見られることから、表皮におけるトランスクリプトーム解析からカルシウム振動との関連が想定される遺伝子を同定し、その中の4遺伝子については破壊株を作成していた。その表現型解析から根粒共生が促進される2変異体を特定した。 また、カルシウム振動の発生には表皮細胞におけるNod ファクターの受容が重要な起点となっている。この受容体タンパク質であるNFR1の変異体ではNod factorに応答したカルシウム振動は発生せず、以降の共生応答や根粒形成が進行しない。しかし、nfr1変異体の中から、根粒形成は起こらないがNod factorに応答したカルシウム振動が生じる変異体をこれまでのnfr1変異体とは異なるエコタイプの植物体より同定した。このnfr1変異体は1アリルしかなかったことから、同じエコタイプのミヤコグサに対してゲノム編集によりNFR1に変異を導入し、その発生機構の解析を行うこととした。現在、nfr1変異の導入に成功し、ホモ個体の選抜を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
トランスクリプトーム解析より得られた遺伝子の破壊株の取得に成功し、さらにその共生表現型解析から、表現型の変化を示す変異体が見られたことから、今後の遺伝子機能の解明に大きな進捗が見られると考えられる。この結果をうけ、さらにトランスクリプトーム解析の結果から、追加で共生遺伝子の同定を行い、これらの発現解析からカルシウム振動の制御下にある遺伝子の探索を拡張することができた。また、この研究成果の一部を利用した論文を投稿し、受理された。カルシウム振動の解析も予定通りに進捗しており、そこから派生した研究成果も得られていることから、上記の区分とした。
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今後の研究の推進方策 |
ゲノム編集によって得られた共生遺伝子の変異体の表現型解析から、根粒共生の表現型が変化する変異体を同定することに成功したことから、この詳細な機能解析によって根粒共生において果たす役割について明らかとしていく。特に、カルシウム振動の発生の有無からカルシウム振動の誘導機構あるいはそれによって制御される共生遺伝子である可能性を検証し、カルシウム振動の機能解析につなげていく。また、根粒共生との共通機構が見られるアーバスキュラー菌根共生における役割についても調べるため、変異体へのアーバスキュラー菌根菌感染による表現型解析なども行っていく。 また、カルシウム振動を発生させるnfr1変異体のトランスクリプトーム解析から、新たに複数の共生遺伝子群を同定し、それらのプロモーターレポーター(GUS)コンストラクトを作成中であり、カルシウム振動の誘導因子である共生シグナルNod factorやキチンに対する応答性を解析予定である。このカルシウム振動の誘導に重要な機能を持つNFR1の特殊な変異体自体を用いた解析も継続し、カルシウム振動の誘導機構とその特性を生かしたカルシウム振動誘導遺伝子などの解析も勧めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究に予定より大きな成果が得られたことから、本来研究成果のまとめを行う予定であった次年度も、この研究課題を発展させる研究を継続して行う。主に本課題で新たに発見した共生遺伝子の遺伝子機能の解析のための分子生物学、生化学試薬やプラスチック消耗品、遺伝子発現解析の委託費などに次年度使用額を充てるとともに、学会発表や論文作成費にも使用する予定である。
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