植物と根粒菌との根粒共生において、共生応答反応「カルシウム振動」は、根粒菌のシグナル分子であるNodファクターを受容することで、宿主細胞内のCa2+濃度が周期的な変動を示す現象であり、その特徴的な振動パターンが共生シグナル情報をコードすると考えられている。本研究ではマメ科植物ミヤコグサにおいてカルシウム振動制御下にあると推定される共生遺伝子を同定し、その機能からセカンドメッセンジャーとして幅広い役割を持つCa2+が、振動現象によってコードした共生シグナル情報を解読することを目的とした。 昨年度、ミヤコグサのNodファクター受容体NFR1は、あるエコタイプのnfr1変異体ではカルシウム振動の発生が消失しないことを報告した。同じエコタイプで作成した異なるnfr1アリル2系統の解析を行ったところ、これらのアリルでもカルシウム振動の発生が確認でき、エコタイプによるNodファクター受容能の差異が確認できた。今後はこの変異体の解析から、カルシウム振動の発生機構についての新たな知見が得られるものと期待している。 ミヤコグサにおけるカルシウム振動の経時的な変化を調べたところ、根粒菌感染の数分後から数日間はカルシウム振動が継続していることを確認した。これまでに同定した共生応答遺伝子のプロモーターGUS解析から、カルシウム振動の発生期間中の共生菌接種後1-2日で表皮細胞での発現が観測でき、カルシウム振動との関連性を確認できた。また、これらの遺伝子の変異体の中から、根粒菌感染や共生器官の形成が促進される表現型を示すものが同定された。そのためこれらの遺伝子発現は共生を抑制する機構を持ち、初期の共生応答が共生を負に制御する調節因子として機能する可能性を示した。今後はカルシウム振動によるこれらの遺伝子発現の直接的な制御についての研究を行っていく。
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