研究課題/領域番号 |
18K06300
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研究機関 | 国立遺伝学研究所 |
研究代表者 |
藤原 崇之 国立遺伝学研究所, 遺伝形質研究系, 助教 (10595151)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 細胞周期 / 昼夜リズム / 代謝 / 光合成 / 真核藻類 / Cyanidioscyzon merolae / 紅藻 |
研究実績の概要 |
光合成生物は、光合成によって無機物から炭水化物やアミノ酸等の有機物を合成し、これらを代謝し、増殖(細胞の生長と分裂)する。合成された有機物が間接的に従属栄養性生物にも利用されることから、光合成は生態系へのエネルギー導入の窓口となっている。従って光合成生物の代謝と増殖の関係を調べることは重要である。光合成生物の代謝遺伝子の発現は概日リズムや日周によって変化することが知られているが、細胞周期進行が代謝系の変化に与える影響はほとんど知られていない。平成30年度は、この問題を調べるために、単細胞真核紅藻Cyanidioschyzon merolaeの日周におけるトランスクリプトーム解析を行った。単細胞性真核藻類は、陸上植物のように組織分化をせず、細胞を取り巻く環境(光強度、pH、栄養塩類等)が均一、光の明暗周期下で細胞周期が同調する。さらにC. merolaeは遺伝的改変が容易なことから本実験に適当な生物である。昼間には光合成、アミノ酸合成、リボソームなど細胞生長に関わる主要な代謝遺伝子が誘導され、一方で夜間には、デンプン分解、乳酸発酵など解糖系の亢進と関連のある遺伝子、dNTP新生に関連する遺伝子が誘導されていた。次に細胞周期に依存した代謝系を調べるために、細胞周期制御因子CDKAを条件的に抑制できる株(CDKAノックダウン株)を作成しG1期に細胞周期を停止させた。また日周を通じて非同調的に細胞分裂を行うRBRノックアウト株を用いた。野生株および2種の変異体の日周トランスクリプトームを比較した結果、一部のデンプン分解関連遺伝子とdNTP新生に関わる遺伝子が細胞周期に依存し。それ以外の代謝遺伝子の制御は細胞周期進行とは独立しており、日周に依存していることが分かった。本実験で構築された遺伝子発現データは光合成生物の代謝と細胞周期の関連を研究する上での基盤となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度は、CDKA条件的ノックダウン株の作成によって、植物細胞ではほとんど例のないG1期停止細胞による実験系を構築することに成功した。これにより野生型と比較することで、日周あるいは細胞周期に依存した遺伝子を明確に区別して、細胞増殖における代謝と細胞周期進行の関係を解析することが可能となった。
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今後の研究の推進方策 |
本トランスクリプトーム実験により、細胞周期進行(G1/S, S/M)が起こる夜間にも、いくつかの代謝系が亢進することが予測された。これらには細胞周期に依存するものと独立に起こるものがあるが、光合成によるエネルギーと有機物の生産、これによる細胞生長の起こらない夜間に起こる意義や理由、また適切な細胞周期進行との関連が知られていない代謝系も含まれていた。今後は、該当遺伝子の条件的抑制株を作成し、メタボローム解析による代謝の変化および細胞増殖や細胞周期進行に当たる影響を解析していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成30年度の実験結果を論文として投稿し、科学誌に掲載するための費用とする予定であったが、平成30年度内には掲載が間に合わず翌年度に持ち越した。翌年度の予算は、論文掲載料に使うとともに、実験に用いる藻類の遺伝学的改変のための費用(培養用のプラスチック・ガラス製品、DNAオリゴプライマー、塩基配列のシーケンス)、およびメタボローム解析のための試薬・解析依頼のための費用として使用する。
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