研究実績の概要 |
光合成真核生物は、葉緑体で光合成を行うことで、高効率のエネルギー変換を可能としているが、光合成は適切に駆動されなければ活性酸素種の発生源になり細胞を傷害する。光合成を適切に駆動するためには代謝フローを調節する必要があると考えられる。しかしながら、日周などによる光量の変動や、細胞周期などの内部環境の変動と代謝のフローがどのように関連し、光合成真核生物が安全に増殖しているかという極めて重要な問題はほとんどわかっていない。 令和2年度は、日周における代謝変動を調べるために、単細胞藻類Cyanidioschyzon merolaeシゾンを実験モデルとして用い、日周のトランスクリプトーム解析を行った。さらにKEGGパスウェイエンリッチメント法により、代謝関連遺伝子の動態を解析した。その結果、主要代謝経路に属する多くの遺伝子の発現は、日周に依存して変動し、特に朝から昼にかけて上昇していた。一方で夜間に誘導される遺伝子は、デンプン分解系やdNTP合成系経路などに限られていた。これは、昼間に光合成を行い生長することと、夜間は光合成貯蔵物を分解して恒常性を保っていることを反映している。 さらに細胞周期進行と代謝変動の関係を調べるために、G1/S制御御因子であるサイクリン依存性キナーゼCDKAの遺伝子発現を条件的に抑制する変異株を作成した(G1/S停止株)。野生株と変異株を比較トランスクリプトーム解析した結果、細胞核DNA合成に必須なdNTP合成経路と、デンプン分解酵素の一部が細胞周期に依存していることが判明した。デンプン分解は、細胞周期進行のために必要な追加的なエネルギーを生産していることが予想された。本研究で構築できたトランスクリプトーム情報デーダベースは、真核藻類の増殖における日周、細胞周期と代謝の関係を解明するための基礎情報となる(Fujiwara et al., 2020)。
|