研究課題/領域番号 |
18K06302
|
研究機関 | 基礎生物学研究所 |
研究代表者 |
石川 雅樹 基礎生物学研究所, 生物進化研究部門, 助教 (00586894)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | ヒメツリガネゴケ / 幹細胞 / DNA合成 / 細胞周期 / 細胞運命転換 |
研究実績の概要 |
植物の再生過程でおこる細胞運命転換には細胞周期の再開が必須であるが、どのように細胞運命転換が細胞周期の進行・再開によって制御されているのは不明である。ヒメツリガネゴケの葉細胞は、傷害刺激により細胞周期が再開し幹細胞へと変化する。この過程において、細胞周期の進行に依存した新奇なDNA合成がおこり、このDNA合成が幹細胞化に必要であることが分かっている。そこで本研究では、新奇DNA合成の意義を明らかにすることで、細胞周期と細胞運命転換を結びつける分子機構の解明を目的としている。 本年度では、以下の実験を行った。 (1) 新奇DNA合成が開始される領域の特定:新奇DNA合成が開始される箇所では、DNA合成・修復に関わる因子が結合することが考えられた。そこで、DNA合成・複製のマーカーとして、DNA複製に関わるPCNAをコードする遺伝子にGFP遺伝子をノックインさせ、PCNA-GFP融合タンパク質を発現する形質転換体を作製した。切断葉の細胞内局在変化を調べたところ、幹細胞化の過程で核内でドット状にGFPシグナルが検出された。これらのことから、PCNA-YFPが幹細胞化の過程でゲノムDNA領域に結合していることが示唆された。またGFP抗体を用いて、PCNA-YFPタンパク質を免疫沈降させることができることを確認した。一方、DNA修復のマーカーとして、RAD51-GFPノックインラインを作製した。 (2) 新奇DNA合成領域の特定:チミジンアナログであるEdUを切断葉の幹細胞化している細胞のみに取り込ませる実験方法を確立し、超並列シーケンサー解析用のライブラリー作製の準備を行った。またNanoporeシーケンス技術により、EdUを取り込ませたゲノムDNAを直接読むことができる可能性が示唆されたため、その条件検討を開始した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
PCNA-YFP、RAD51-YFPラインの作製が完了し、特にPCNA1-GFPラインを用いたChIP-seq解析を行うことができる環境が整った。また、EdUを幹細胞化している葉細胞のみに取り込ませる方法がほぼ確立できたため、次年度でライブラリー作製を行い、超並列シーケンサーで解析することが可能になった。
|
今後の研究の推進方策 |
平成30年度に引き続き、石川が研究全体を統括し、研究協力者である大学院生とともに実験をすすめる。 (1)新奇DNA合成の開始点の同定:PCNA1-GFPラインの切断葉を用いて、GFP抗体を用いたChIP-seq解析を行い、DNA複製機構が結合している部位を同定する。同様に、RAD51-ラインについてもChIP-seq解析を行うための条件検討を行い、条件が整い次第、ChIP-seq解析を行う。 (2)切断葉からEdUを取り込んだゲノムDNA断片を回収し、ライブラリー作製を行う。その後、超並列シーケンサーで解析し、ゲノム上にマッピングすることで、どの領域でDNA合成が起こっているのかを明らかにする。また、PCNA-GFP、RAD51-GFPの結合部位を考慮することで、新奇DNA合成が複製・増幅・修復のいずれかに該当するのか推察する。その結果に基づき、DNA複製や修復に関わる因子をノックダウンさせ幹細胞化における新奇DNA合成の有無、表現型を調べる。また、NanoPoreシーケンス技術を用いた新奇DNA合成領域の特定についても、引き続き条件検討を行う。 (3)改変したCRISPR-Cas9システムを用いて、遺伝子座ごとのシスエレメントに結合するタンパク質を回収し、網羅的にタンパク質を同定する方法の開発に着手する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
(次年度使用額が生じた理由)幹細胞化している葉細胞のみにEdUを取り込ませる方法を確立するため、様々な条件検討が必要であると考えていたが、想定よりも早く実験条件が決まったため、試薬等の購入を抑制することができ、当該次年度使用額が生じた。 (使用計画)Nanoporeシーケンスの条件検討を行うための物品・試薬の購入費にあてる。
|