研究課題
ショウジョウバエを用いた研究により、生殖細胞の形成に必要な転写制御因子として母性Ovoタンパク質が同定されている。本研究では、母性Ovoタンパク質が生殖細胞形成に果たす役割を明らかにすることを目的として、母性Ovoタンパク質の下流遺伝子を同定し、その機能を明らかにすることを目指している。マイクロアレイ解析により、母性Ovoタンパク質が始原生殖細胞中で転写を活性化することが明らかになっている遺伝子が401個同定されている。そこで、本年度は、発現パターンがデータベースに公開されていない168個についてin situハイブリダイゼーション法により発現解析を試みた。その結果、後期胚の始原生殖細胞において17遺伝子が発現しており、うち5遺伝子は始原生殖細胞特異的に発現していた。以上の結果より、昨年度解析を行ったデータベースに公開されている情報と合わせて、後期胚の始原生殖細胞において高発現するOvo下流遺伝子が38個同定された。さらに、うち10遺伝子が始原生殖細胞特異的に発現することが明らかになった。次に、RNAi法により、これらの遺伝子の機能を阻害した。その結果、卵巣と精巣の退縮が観察される遺伝子を8遺伝子同定した。また、卵巣特異的に成熟卵の形成が阻害される遺伝子を2遺伝子同定した。これら10遺伝子は生殖系列の細胞の維持や、卵成熟に機能していることが示唆された。さらに、遺伝子の機能を阻害することにより次世代の孵化率が有意に低下する遺伝子を9遺伝子同定した。これら9遺伝子は、機能的な卵や精子の産生に機能していることが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
後期胚の始原生殖細胞で高発現するOvoタンパク質の下流遺伝子が38個同定した。これらの遺伝子に着目して、RNAi法を用いたスクリーニングを行うことにより、生殖系列の細胞の維持に加え、機能的な配偶子の産生に機能する遺伝子が同定された。以上の結果は、母性Ovoタンパク質が生殖細胞特異的な遺伝子発現の活性化を介して、機能的な配偶子の産生に機能していることを示唆するものであると考えられる。
本年度、生殖細胞の発生に機能することを明らかにした母性Ovoタンパク質の下流遺伝子の詳細な機能解析を行う。具体的には、1) 生殖系列の細胞の維持に機能することが明らかになった遺伝子については、発生過程のどの時期に機能しているかを明らかにする。さらに、2) 機能的な配偶子の産生に機能していることが明らかになった遺伝子については、産生された配偶子にどのような異常があるかを解析する。
データベースの情報を用いることで発現解析の対象遺伝子を絞り込めたことにより、予定よりも順調に候補遺伝子の絞り込みを行えた。これにより、支出を抑えることができた。今年度は、候補遺伝子の解析を進めるために、分子実験用試薬の購入および組織染色に用いる試薬の購入に充てていきたいと考えている。
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