ショウジョウバエを用いた研究により、生殖細胞の形成に必要な転写制御因子として母性Ovoタンパク質が同定されている。しかし、母性Ovoタンパク質の機能を阻害した生殖系列の細胞は発生過程で消失してしまうため、生殖細胞分化過程における母性Ovoタンパク質の機能は明らかになっていない。 そこで、本研究ではまず、生殖系列の細胞が発生過程において消失する原因を明らかにするため、母性Ovoタンパク質が胚期において転写を活性化する遺伝子の探索と、その機能阻害実験を行なった。その結果、母性Ovoタンパク質下流遺伝子のうち7遺伝子が、生殖系列の細胞の維持に機能することを明らかにした。さらに、このうち、2遺伝子は、胚期のみでの機能阻害においても、オスとメスの両方において、生殖系列の細胞が消失し、精巣と卵巣がともに退縮することが明らかになった。以上の結果より、母性Ovoタンパク質の機能を阻害した個体において、精巣と卵巣が退縮する原因として、これら2遺伝子の発現が低下したことに起因する可能性が考えられる。 また、母性Ovoタンパク質が生殖系列の細胞において転写を活性化する遺伝子群には、piRNA産生を介してレトロトランスポゾンの発現抑制に機能する遺伝子が多数含まれることが明らかになった。このことから、生殖系列の発生においてレトロトランスポゾンの発現抑制に機能するという、生殖系列の発生におけるovo遺伝子の新たな役割が見出された可能性が考えられる。
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