研究課題
下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ポリペプチド(PACAP)は進化的に構造がほとんど変化せずにヒトまで残っている神経伝達物質であり、神経保護作用、摂食行動調節作用、記憶学習増強作用、血圧低下作用など多くの重要な生理機能を持つことが明らかになっている。ゼブラフィッシュを含む魚類では2つのPACAP(PACAP1およびPACAP2)および2つのPACAP受容体(PAC1aRおよびPAC1bR)が存在する。しかし、その機能や分布の違いは明らかになっていない。我々はこれまでにゼブラフィッシュの持つ2つのPACAPおよびPAC1Rの組織分布の観察と受容体の機能解析を中心として研究を進めてきた。昨年度までにPACAP2またはPACAP1を特異的に認識する抗体を作成し、免疫染色法により2つのPACAPの分布を明らかにした。本年度はmRNAの局在を明らかにするため、in situ hybridization法により組織分布を観察した。PACAP1 mRNAおよびPACAP2 mRNAの局在を明らかにすることができ、免疫染色の結果と併せて、PACAPの投射経路の相関関係を明らかにできた。PACAPの行動生理学的研究も進めており、セブラフィッシュPACAPの脳室内投与により、摂食行動が抑制される一方、自発運動量には影響を与えないことが明らかになった。さらにPACAPが記憶学習行動に影響するかを評価するため、短期記憶の評価系であるY字迷路およびT字迷路、長期記憶評価のための能動回避試験、受動回避試験を構築した。さらにゼブラフィッシュが群れに近づく性質を利用した社会性行動試験、拘束により一定のストレスを与える拘束ストレスモデルも確立した。
1: 当初の計画以上に進展している
当初の計画通り、まずPACAP1とPACAP2の組織分布をそれぞれのPACAPを特異的に認識する抗体を作成して免疫染色法により観察した。PACAP1の免疫染色の結果、PACAP1免疫陽性反応は脳の広い範囲に観察され、特に終脳、視床下部、内側縦束核、橋、迷走葉などに陽性細胞が観察された。この分布から、PACAP1は主に遊泳運動や摂食行動などの生得的行動、味覚の制御に関わっている可能性が考えられる。一方、PACAP2免疫陽性反応は終脳、視床下部、小脳に観察された。さらにin situ hybridization法により、PACAP mRNAの分布を明らかにすることができた。以上の結果は、PACAP1とPACAP2は脳内分布が異なっており、異なる生理機能を担う可能性を示唆した。次に、研究分担者の海谷と共に行ったCHO細胞を用いた実験により、2種のPACAPともにPAC1Rに作用して2種類のシグナル伝達経路を活性化させることが明らかになった。この結果はゼブラフィッシュの持つPACAPおよびPAC1Rが機能的であることを示唆しており、論文投稿を準備している。PACAP2の組織分布に関しては国際誌Peptidesに掲載された。さらに、組織分布と摂食抑制作用のデータはFrontiers in Endocrinologyに掲載された。
今後はPAC1Rの脳内局在を明らかにするため、in situ hybridization法によりそれぞれの脳内局在と分布相関を明らかにしていく予定である。さらに、現在確立したストレスモデルや記憶学習および社会性行動の評価系を用いて、内在性PACAPまたはPAC1Rの発現動態を調べ、PACAP投与またはPACAP KOまたはPAC1R KOゼブラフィッシュを用いた解析を進める予定である。
新型コロナウィルスの感染拡大により、参加予定であった学会が中止となり、購入予定の試薬も一部購入できなかった。繰り越し金は主に試薬代として最終年度に使用する予定である。
すべて 2020 2019 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (17件) (うち国際学会 7件、 招待講演 3件) 備考 (1件)
Frontiers in Endocrinology
巻: 10 ページ: 227
10.3389/fendo.2019.00227
Peptides
巻: 119 ページ: 170118~170118
10.1016/j.peptides.2019.170118
eLife
巻: 8 ページ: e45306
10.7554/eLife.45306
http://www.sci.u-toyama.ac.jp/research/result.html